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ミックスドマーシャルアーツ(MMA)という格闘スポーツについて、コラムや試合レビューを書いています。

【日本MMA】燃える名古屋の「世界戦線」!『HEAT 37』3大チャンピオンシップ【大会紹介】

観てきたので!

HEAT 37 -Tezuka vs. Kasugai-
開催:日本32日本(JPN) 愛知県, 名古屋国際会議場 イベントホール
日時:2016年 3月6日(日)
主催:HEAT事務局 (志村道場日本拳法同心会館)
代表:志村民雄(しむら たみお, EP)
試合形式:MMA(ミックスド・マーシャルアーツ), キックボクシング
試合時間:5分3ラウンド(MMA), 3分3ラウンド(キックボクシング)
試合場:金網リング(8角形, 直径8m)




日本で早期に金網&MMAユニファイドルールを本格導入したMMA組織がありました。
先陣を切ったのが、今は亡きCage Force(ケージフォース)
そのCage Forceに次ぎ、早くに金網を取り入れたMMA組織のひとつ。
それがHEAT(ヒート)です!

「名古屋から世界へ」を標榜するHEATは、愛知県名古屋市をホームに、日本拳法中部の重鎮である志村代表が舵を切るMMA組織です。
三大都市のひとつであり外国との交流が盛んな名古屋らしく、外国人との「日本対世界」対決が盛んな事も特徴的です。
2005年に旗揚げしたHEATは、2007年の第4回大会より金網を導入。
以来中部日本MMAの老舗組織として、年3~5回の開催を維持してきました。

『HEAT 37』ではバンタム級ミドル級ウェルターの三階級でMMAチャンピオンシップが組まれ、その全てが日本MMA最高峰クラスの勝負論のあるカードが揃うという重要な大会となりました。
3つのチャンピオンシップ以外にも、国際色&バリエーション豊かな選手達による特色ある闘いが繰り広げられました。

以下は簡単ながら、各チャンピオンシップのレビューです!

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◆◆◆HEAT MMA バンタム級チャンピオンシップ 5分5ラウンド◆◆◆
日本32 手塚基伸(王者)vs.春日井健士(挑戦者) 日本32

手塚基伸 てづか もとのぶ
出身:日本32日本(JPN) 長野県 安曇野市
所属:Cobra Kai MMA Dojo総合格闘技道場コブラ会)
スタンス:サウスポー
競技経験:空手、柔道
主な特徴:インファイトのプレッシャー、テイクダウンとの連携
得意技:左フック、肩固め


春日井健士 かすがい たけし
出身:日本32日本(JPN) 岐阜県 恵那市
所属:Shimura Dojo志村道場
スタンス:オーソドックス
競技経験:柔術
主な特徴:多彩な打撃技、高いトップキープ&リバース力
得意技:右オーバーハンドフック、裸締め


パンクラスUFCを経験し、GRACHAN&HEAT王者となった手塚。
かつてはテイクダウンの強さに秀でるグラップラーでしたが、ここ最近は突進力にボクシングテクニックが組み合わさった、アグレッシブなインファイターへと進化を遂げています。
本来は祖根寿麻(そね かずま)との防衛戦が予定されていたものの、祖根が負傷欠場した事で春日井にチャンスが舞い込みました。

春日井はフライ級の選手ながら、2014年にバンタム級で手塚に判定勝ちするアップセットを起こしている実績もあり、今回の代役に抜擢されました。
手塚にとっては、HEATで敗れた相手への王座を懸けたリベンジマッチとなりました!

試合はメインイベントに相応しい、ハイレベルな攻防が展開されました!
距離を詰めてインファイトに持ち込みたい王者、距離を保って手塚のインファイトを封じたい春日井…という構図。
手塚は様々な角度からジャブ&フックで春日井にプレッシャーをガンガンかけていきます。
春日井は縦構えとステップで手塚の圧力を受け流しつつ、細かな突き&オーバーハンドフックで突き離します。
1R終盤に手塚が打ち終わりのフックでダウンを獲り、そのままトップキープ。しかし春日井もすぐさまスウィープで返します。
2Rになると回転数の上がる春日井の打撃が徐々に制空権を支配するようになります。
手塚は果敢に踏み込み一発を狙いますが、春日井はローキックも交えて矢継ぎ早に打撃の防波堤を作ってこれを凌ぎます。
それでも要所でヒットを当てた手塚が4Rにテイクダウン成功。しかし春日井も凌ぎます。
5Rにガス欠が近づくも更にアグレッシブになっていく手塚。何度も懐に潜りこみテイクダウンを狙いますが、その尽くを春日井は突き離して優勢を守り続けます。
試合終了まで乾坤一擲を狙い続けた手塚。その勢いを春日井が防ぎきって試合が終了しました。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
25分間に渡り打撃と寝技のせめぎ合いが展開された、見事な神経戦でした。
判定はスプリットで春日井が勝利!一階級上ながら生涯初のベルト戴冠劇となりました。
アグレッシブに一発を狙う「面白い試合」をした手塚でしたが、春日井は最後までその勢いを「面白い展開」に繋げさせませんでした。
見事な完封勝ちでしたし、3-0ユナニマスでも問題ない内容だったと思います。
とはいえ1Rは確実に手塚が獲り、その「面白い試合」の攻撃性に振ったジャッジがいたのが判定が割れた理由かな~、と思います。
試合が決定的に動いたのは、両者の得意とする組み際での攻防でした。
手塚はパンチの向上が目覚ましいですが、その脅威も元々の強みである寝技あってこそ。
それを春日井が執念を持って跳ね返した事で、手塚は強引なインファイトで一発を狙うしか無くなり、追い詰められて行ったのだと思います。

春日井は持ち前のグラップリングの強さを存分に発揮し、打撃戦ではリーチ&ステップを活かして手塚の突進を封じるという、見事な「手塚封じ」をみせました。
試合後にはUFC契約を願った春日井。更なる大舞台での活躍を観たいですね~!

一方で、敗れた手塚も最後まで「王者の意地」を見せてくれました。
最近の前向きな戦い方は好きなので、続けていって欲しいですね~!
特に最近の入場曲、The Back Hornの「刃(やいば)」はお気に入りの曲です!
かつては自家製マスクマンであった手塚。
マスクという殻を破った素顔の「ニュー手塚」を応援して行きたいです!

BEST THE BACK HORN/ビクターエンタテインメント



- 刃(やいば) - The Back Horn(ザ・バックホーン)
手塚基伸 入場曲

※「刃」は1分40秒くらいからです!

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◆◆◆HEAT MMA ミドル級チャンピオンシップ 5分5ラウンド◆◆◆
ブラジル32 エンヒキ・シゲモト(王者)vs.坂下裕介(挑戦者) 日本32

Henrique Shiguemoto エンヒキ・シゲモト
出身:ブラジル32ブラジル(BRA) マットグロッソ・ド・スル州 カンポ・グランデ
所属:Fight Move Academy(ファイト・ムーブ・アカデミー)
スタンス:オーソドックス
競技経験:ムエタイ
主な特徴:タフネス、KOパワー
得意技:左フック&右ストレートのコンビネーション


坂下裕介 さかした ゆうすけ
出身:日本32日本(JPN) 兵庫県
所属:Tribe Tokyo MMA(トライブ・トーキョーMMA
スタンス:サウスポー
競技経験:ラグビー
主な特徴:厚みのある体格、爆発力のある突進
得意技:ダブルレッグ・テイクダウン


シゲモトはHEATで活躍する日系ブラジル人ファイターです。
2011年にトーナメントを制し王者になったシゲモトは、王座を一度返上します。
そして昨年に、前王者の加藤久輝(かとう ひさき)とのチャンピオンシップに挑みました。
序盤から加藤の左フックに2度のダウンを奪われるも、驚異のタフネスとKOパワーでこれを耐え抜き、大逆転KO勝利で再びベルトを腰に巻きました。

シゲモトの初防衛戦の相手は、同じくHEATの常連ファイターである坂下。
坂下はボブ・アームストロング等のフィジカルに勝る海外選手を、ラグビー仕込みの低空滑走テイクダウンで次々と倒して連勝してきました。
40歳の叩き上げファイター、坂下が最大の大一番を迎える試合となりました!

試合は、序盤から最後まで強打が飛び交う打撃戦になりました!
坂下が素早く動きながら右ジャブ&左フックを細かくヒットさせていく立ち上がり。
坂下のパンチを被弾するシゲモトですが、関係ないと言わんばかりに距離を詰めてハイキック&ストレートで攻め立てます!
坂下も応戦し、激しい打撃&テイクダウンの攻防が展開します。
打撃戦の均衡を破ったのはシゲモト。打撃力で徐々に坂下を追い詰めていきます。
1Rあと少し、という所でシゲモトがテイクダウン!
立ち上がろうとした坂下を逃さず、パウンド連打で坂下を金網に釘付けにします!
坂下は遂にダウンし、豪快なパウンドアウトでシゲモトが王座防衛を果たしました!

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
シゲモトが驚異のタフネス&パワーを観せつけた一戦でした!
坂下の打撃を受けてもひたすらパンチを繰り出す姿からは、自らのタフと打撃の威力への絶対の自信を感じさせてくれました。
日本国内では、エンヒキのタフネスを突き破る事は容易では無いでしょう。
一方で、エンヒキのタフネスへの自信はダメージを加速させる諸刃の剣であり、また外国人選手とのタフネス合戦になった時に弱点にもなりかねないな、とも感じました。
エンヒキはタフネスに加えて、更なるコンプリートチャンプを目指して欲しいですね~!

一方で、熱い試合で魅せた坂下はこの試合を最後に引退を表明しました。
日本人選手がフィジカルの壁に弾かれるMMAミドル級において、当たり負けない肉体の強さと真っ向勝負を挑む姿勢が印象的でした。
ラグビーMMAからのサードライフの成功を願っています!

One Time For All Time/Thomason Sounds


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◆◆◆HEAT MMA ウェルター級チャンピオンシップ 5分5ラウンド◆◆◆
スイス32 ネルソン・カルヴァーリョ(王者)vs.山下豪太(挑戦者) 日本32

Nelson Carvalho ネルソン・カルヴァーリョ
出身:スイス32スイス(CHE) ヌーシャテル
所属:Fight Move Academy(ファイト・ムーブ・アカデミー)
スタンス:オーソドックス
競技経験:柔術
主な特徴:オールラウンドな技術、緩急の激しい打撃
得意技:左ジャブ、右ミドル&ハイキック


山下豪太 やました ごうた
出身:日本32日本(JPN) 兵庫県 尼崎市
ニックネーム:Let's(レッツ) ※名前のGotaと合わせたLet's GOの捩り
所属:Cobra Kai MMA Dojo総合格闘技道場コブラ会)
スタンス:サウスポー
競技経験:柔道
主な特徴:高い身体能力と筋肉の瞬発力
得意技:左ジャンピングストレート、スープレックス


カルヴァーリョはシゲモトと同門のスイス人ファイター。
HEAT初参戦で前王者、高木健太(たかぎ けんた)に勝利して新王者になりました。
フワリとしたステップから一気に勝負を仕掛けるオールラウンダーであり、高木戦でも鋭いミドルキック&テイクダウンで試合を組み立て、パウンドアウトで完勝してみせました。

初防衛戦の相手は、パンクラス前チャンピオンである山下"レッツ"豪太。
身体能力の高さと思い切りのよいアグレッシブな攻撃を持ち味とする新鋭です。
この試合は鈴木槙吾(すずき しんご)に連敗して王座を失った山下にとって、ハイリスク&ハイリターンな挑戦でした。
その鈴木戦も、打撃戦を避けるような消極的な試合から一本負けを喫してしまっており、この試合は山下が歯車を修正できるのか、そこにも大きな焦点が当たる一戦となりました。

試合は静かな立ち上がりから、一瞬で決着を迎える事になりました。
山下は序盤から距離を詰めて、カルヴァーリョにプレッシャーをかけていきます。
カルヴァーリョはミドルを一発、次の右ハイキックでダウンを獲ります!
山下はダウンしながらも蹴り足をキャッチ、崩れるようにうつ伏せになります。
カルヴァーリョは山下のクラッチごと脚を絡ませ、同時に腕も首に絡めていきます。
振り解こうとした山下の防御を跳ね返し、裸締めを極めてタップアウト!
王者カルヴァーリョがダウンからの見事な一本勝ちで、初の王座防衛に成功しました。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
短いながらも様々な要素が詰まった秒殺劇でした!
山下は強気に攻めましたが、攻撃に集中しすぎてやや警戒が不足していたと思います。
そこを見逃さなかったカルヴァーリョの勝負強さが光る一戦でしたね。
今回の試合で、HEAT王者としての強さとプライドを見せる事が出来たように感じます。

カルヴァーリョは自身のInstagram日本食の写真居合抜きの動画を公開していたり(笑)と、なかなかの親日家。
カルヴァーリョのHEAT王座への強い想いを感じられた一戦でしたし、これから日本で彼の人気が上がって行って欲しいな~と思います!

一方で山下にとっては、MMAキャリアを見つめ直す事を迫られる敗戦となりました。
正直、全てを出し切ってはいないと思いますし、ここで終わって欲しくは無いです!
この負けを乗り越えて進化した"レッツ"豪太を観れる事を願っています!
がんばれレッツ!!


MONSTER/B’z


以上、3大チャンピオンシップの紹介でした!!
2試合が1ラウンドで決着というのは予想外でしたね~。
それほど王座戦に相応しい拮抗したカードであったと思います。
メインイベントは両者共5ラウンド死力を尽くし、HEATのレベルの高さを観せてくれました。

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以下は、3大チャンピオンシップの他に特に面白かった試合を紹介していきます!

◆◆◆HEAT MMA ウェルター級 5分3ラウンド◆◆◆
日本32 加納亮祐vs.キム・ギュソン 韓国32

"加マーク納(かまーくのう)"こと加納亮祐(かのう りょうすけ)は昨年に2連勝を上げている新鋭グラップラーで、韓国のTop FCでキャリアを積むギュソンとの初国際戦が組まれました。

試合は「これぞMMA!」という醍醐味を感じさせてくれる好勝負になりました。
加納はギュソンの圧力を上手くいなし、序盤にフックをクリーンヒットさせダウンを先取!
そのままギュソンを寝技でも抑え込み、しっかりと優勢場面を作っていきます。
ギュソンもボトムから腕十字を何度も狙っていく気の抜けない攻防が続きます。
それでもトップから削っていく加納が優勢のまま試合が進みますが、2R終盤にギュソンが遂に腕十字に成功します!
一瞬を見逃さなかった鮮やかな極まりで、加納も堪らずタップ。
ギュソンが素晴らしい逆転勝利をあげました!!!

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いや~、良い試合でした!
負けてしまった加納ですが、序盤からギュソンの打撃を見切ってしっかり打撃を当てており、寝技でも削りの上手さが光りました。7割方勝利を手中に収めていたと思います。
しかし、そんな加納の削りにも耐えきり、最後まで一本を狙い続けたギュソンのファイトスピリッツが勝利を呼び込んだ大逆転劇でした!
二人ともの評価が上がり、尚且つ一瞬の攻防が勝負の分かれ目となったMMAの魅力を凝縮したような試合でした!まさに「こういう試合が観たい!」という試合でしたね~。
ギュソンは勿論、加納の今後の活躍にも期待していきたくなる一戦でした!


◆◆◆HEATキックボクシング ミドル級 3分3ラウンド◆◆◆
日本32 田中雄基vs.根間裕人 日本32

HEATはMMAの他に、キックボクシングの試合も本格的に行われています。
各階級に王者が揃い、金網でのキックボクシングが行われています。
"ストライク"田中雄基(たなか ゆうき)は三重県出身で空手ベースの選手。
廣虎(ひろと)のニックネームをとる根間裕人(ねま ひろと)は、沖縄県出身でボクシングをベースに持ちます。

まずは廣虎の出身、沖縄民謡エイサーの艶やかな入場から始まります!
立ち上がりから廣虎が強力なローキックをヒット!ガンガン攻めて田中を下がらせます。
田中も細かく動きながら左ストレートを当て、そこから連打で反撃していきます。
廣虎は連打を喰らいながらも更にプレッシャーをかけ、強烈なストレートでダウンを獲ります!これが決定打になり廣虎が見事なKO勝利をあげました!

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
廣虎のフィジカルと正確な強打が印象に残った試合でしたね~!
田中も強打を被弾しつつも諦めず、廣虎の左を確実にかわして反撃を試みていました。
勝利した廣虎は現王者のダニロ・ザノリニに対戦表明!!
ザノリニもこれに受けて立つという熱い展開が生まれました!
沖縄生まれのキックボクサー、廣虎の活躍に期待ですね。良い試合でした!!


- ダイナミック琉球 - 成底ゆう子(なりそこ ゆうこ)
"廣虎"根間裕人 入場曲

上記の曲に合わせて力強く打ち鳴らされるエイサーの迫力は、非常に見応えがありました!
基本的には試合内容が一番ですが、ちゃんとした選手の「ルーツ」が内包されていて、且つ「エンターテイメント」として成立している演出は大好物です!(笑)
廣虎の入場はチョット長かったですが(たぶん一曲フルで流してました笑)「太鼓(てーく)ぬ響き」はエンターテイメントとしても、彼の琉球のルーツを感じさせてくれるものとしても素晴らしかったです。

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この他にもHEATらしい「日本対世界」のバラエティ豊かな試合が行われていました。
これからも「名古屋から世界へ」のスローガンのもと、王座を巡る激しい戦いが続いて欲しいです!

あとDVD化も待ってまーす!テーマ曲もちゃんと聴いてみたいな~。