クロネコMMA図書館🐾

ミックスドマーシャルアーツ(MMA)という格闘スポーツについて、コラムや試合レビューを書いています。

MMAお気に入りテクニック十選 その六~十【最高じゃーい!】

 

 

MMAで観ると「最高やん…(感涙)」となるお気に入り技を紹介していくコーナーの続きです

一~五はこちらです→MMAお気に入りテクニック十選 その一~五【めっちゃ好き】

theanswer.hatenablog.com

 

調べるために好きな試合を観返しまくったので超楽しかったです(笑)

6.クラウチ&ダートパンチ

クラウチ(Crouch=かがむ)は前傾して相手の攻撃をかわしつつ移動する動きのことで、MMAにおいて相手を攪乱して死角へ回り込む強力なステップワークです。

片足に体重を乗せて上半身を左右どちらかに沈みこませて、攻撃を回避しながら遠心力と膝の反動を利用して瞬時に体勢を戻します。この動きにスイッチ※1などを混ぜることで相手の視界から一瞬で消えることができ、横側への瞬時の移動も可能にします。

この技の名手にはドミニク・クルーズがいます。ドミニクはクラウチ&スイッチを巧みに使ったレベルチェンジ※2による変幻自在の動きで相手を攪乱して、蹴りやテークダウン(Takedown=持ち上げて倒す、以下TD)へと繋げることでMMAに革新をもたらしました。

ドミニクはダート(Dart=投げ矢)と呼ばれる、クラウチとの連携技も得意とします

クラウチから相手の左右へ飛び移る際、すれ違いざまに放つパンチをこう呼びます。

ドミニクはダートで回避と同時に攻撃を行うほか、そこから組み付くことでニータップ※3のTDにも連携し、幅広いMMAを完成させました。

また、エディ・アルヴァレスもクラウチ&ダートを得意とする選手です。エディは更にクラウチから打つ強烈なアッパーカットとも連携して、優れたインファイトボクシングで激戦に打ち勝ってきました。

 

※1…「Switch=切り替え」。右構え→左構えなど、構えを鏡合わせに瞬時に変えること。

※2…「頭の高さ(Level)が変化する(Change)」という意味で、頭を上下に移動させることを差す。立ち技からボディブローやTDへ繋げる時などに使われる用語。

※3…Knee tap=膝を叩く」。相手の片膝裏に手を添えて、もう片腕で胴体を押し込むことでバランスを崩して倒す投げ技。日本でいう朽木倒し(くちきたおし)。

 

ドミニクのクラウチ&スイッチの連携技「ドミネーターステップ」の解説です。

改めて、ドミニクやエディの動きの素晴らしさを感じますね~。

 

7.シャベルフック(45°フック)

シャベルフック(Shovel hook=シャベルのようなかぎ突き)は別名45°フックとも呼ばれるパンチです。通常のフックは肘と拳を水平にして打ちますが、シャベルフックは肘を拳より下げた状態で打つのが特徴です。

水平のフック(0°)と垂直のアッパー(90°)の中間の軌道(45°)で打つフックないしはアッパーであり、この角度は相手自身の腕などで死角となりやすく、意識外から当てることで相手に強烈なダメージへを与えることができます。

MMAでのシャベルフックの名手にはロス・ピアソンがいます。ロスはヘッドスリップ※4で相手の懐に滑り込むと、防御をすり抜ける45°のフックを連打して猛威を振るいました。

近年ではUFCヘビー級王座に挑戦したフォンシス・エンゲヌーがシャベルフックの使い手として有名です。フォンシスはロスとは正反対にリーチのあるジャブで相手を突き放して、潜り込んだところを強烈な45°のアッパーで撃ち落とすのを得意とします。この技でフォンシスがアンドレイ・アルロフスキーアリスター・オ-フレームを撃墜したのは印象的でした。

 

※4…「Head slip=頭を滑らせる」。腰から上半身を回して頭を左右に素早く移動させ、パンチの回避する防御のこと。

 

フォンシスの強烈無比なシャベルフックの解説。テクニカルかつパワフルな一撃!

アルロフスキー戦の一撃もちょろっと紹介されています。

 

8.クレージーモンキーディフェンス

クレージーモンキーディフェンス(Crazy monkey defense=狂った猿の防御)は、MMAで最も使われる頭部への攻撃に対するブロック(Block=遮断)手段です。

相手のパンチに合わせて前腕と肘を顔面の前にシャカシャカと振り上げてかざすブロックがこう呼ばれます。縦肘打ちの要領で相手のパンチに打ち当てて威力を軽減したり、前腕で滑らせて軌道を逸らすほか、後頭部に掌をつけてピッタリと首筋を守る形もあります。特に大振りのフックやハイキックの防御&懐に入り込む手段としてMMAでも広く使用されており、TJ・ディラショーやタイロン・ウッドリーもこのブロックを得意としています。

この技の最大の名手がクイントン・"ランペイジ"・ジャクソンです。ランペイジは当時の絶対王者であったチャック・リデルの必殺フックをこのクレージーモンキーディフェンスを駆使して完封すると、ボディアッパーへと切り替えたチャックの顎を捉えたフックで劇的にKO勝利して王座を奪取しました。

近年ではジュシエル・フォルミーガがベン・ニュエンのフック&ハイキックへの防御として使用していたのが最も印象的です。フォルミーガはベンのハイキックを前腕で受けて頭部へのダメージを減らしつつ、瞬時に裏拳に切り替えて鮮やかにダウンを奪いました。

 

0:22からランペイジのクレージーモンキーディフェンスが観られます。

ヴァンダレイ・シウヴァのフックを見事に防御し、反撃のフックでKOしていますね。

0:44からはチャック戦のKOシーンも観られ、ここでもクレージーモンキーディフェンスで頭部を防御しています。チャックはボディアッパーに切り替えたため被弾はしたものの、防御によって空いた顎へフックを入れる布石になりました。

 

9.ウィザー&ヒップスロー

ウィザー(Whizzer=風を切る)はMMAでもスプロール※5と並ぶTDへの防御手段です。

鏡合わせの相手の腕に上手から前腕を巻きつけて、相手に自分の上半身の体重をかけて中腰で抑える動きのことを差します。腕に力を込めて上体を引き上げたり、そのまま回転させて勢いを受け流すなどしてTDを防ぎます。

MMAでは試合場であるケージ(金網)を使ったウィザーがよく観られます

例えば足を取られてTDに持ち込まれそうになった場合、まずウィザーで堪えてからケージに寄りかかり、体や足の側面をぴったりと金網につけて踏ん張るなどして防ぎます。

近年ではジョゼ・アルドがフランキー・エドガーのTDを金網際のウィザーで打破したことが衝撃的でした。ほかにもリョート・マチダなど、立ち技を維持したい選手の防御としてMMAで広く普及しています。

ウィザーからの連携技では特にヒップスロー(Hip throw=尻を使った投げ)が好きです。

ウィザーからは足払いやスラムなど様々な投げ技へ連携することができます。ヒップスローの場合は、相手の腹を尻や腰に乗せて支点とし、ウィザーから投げて宙に浮かせながら、片足のふくらはぎで相手の脛を蹴り上げつつ軌道を作って落とします。ウィザーは風を切るように勢いを持った動きを表す言葉で、このウィザー&ヒップスローが最もその名前を表していると感じます。

ウィザー&ヒップスローの名手といえばカロ・パリジャンです。柔道でオリンピック候補者であったパリジャンは、MMAにおいてウィザーから放つ豪快なヒップスローを最も得意としました。近年ではカブ・スワンソンがデニス・シヴァーの組みをウィザーで捌いてから払腰※6へ連携したのが流れの美しさもあって印象的でした。

 

※5…「sprawl=寝そべる」。TDに来た相手を正面から受け止め、うつ伏せになりながら両足を広く伸ばして勢いを止める防御方法。

※6…「はらいごし」と読む。ヒップスローのうち、ウィザーをかけた相手の遠い方の足を蹴り上げるものをこう呼ぶ。「外股(そとまた)」とも呼ばれ、相手の近い方の足を蹴り上げる内股(うちまた)とは対になる。
 

アルドの金網際のウィザーを使ったTDの防御について解説です。

アルドの膝蹴りに合わせてフランキーが両脚を取ってTDを狙いますが、(0:30)アルドは下がりながら膝蹴りを打ちつつウィザーをかけてフランキーの上体を上げると(0:32)ウィザーでフランキーの体を押し込みながら回転し、金網に体の側面を押し当てつつ両足を開いて防御を完成させました。(0:33)フランキーも片足を掴んで持ち上げようとしますが、(0:40)アルドはウィザーをかけつつ片足でフランキーの腹を押してコントロールし、これを耐えました。(0:46)

1:12からは、蹴り足を掴んだフランキーをウィザーで抱えて、勢いのまま投げて飛ばすシーンも観られます。

 

パリジャンのウィザーからの柔道投げが3:24から観られます。

フックを打ち込んだパリジャンが、(3:24)その勢いのまま組み付いてウィザー&リストコントロールから払腰を狙い、(3:26)これを耐えられるもウィザーで押し込みながら内股へと変化して投げた(3:28)のが分かります。3:35からも同様の技の仕掛けが観られます。

4:44からの大内刈り、4:53からのTDを防がれてから切り返した払腰も見事です。

 

10.ハイエルボーギロチン(マルセロチン)

ハイエルボー(High elbow=肘を高く上げる)で絞めるギロチンチョークです。

ハイエルボーギロチンは別名マルセロチン※7とも呼ばれ、両腕で相手の頭をがぶったギロチンチョークの体勢から、片肘を高く上げて首を絞め上げることからこう呼ばれます。

ギロチンチョークは巻いた腕で肩を固定して支点を作り、後頭部を腋や上腕に挟んで力点を作ってセッティングを完了させ、力を込めることで喉にダメージを作用させて極めます。この時相手に肩を押し込まれて支点を崩される危険がありますが、ハイエルボーギロチンは手の甲や前腕を相手の肩に押し当てながら引っ張ることで、肩の支点を強固にすると同時により深いダメージを喉に作用させます。ハイエルボーは首のみを抱えて瞬時に絞められる強力な絞め技であり、MMAでも多くの使い手が存在します。

近年のMMAでハイエルボーの使い手として印象的なのがガブリエル・ベニテスです。

ベニテスUFCにて二度ギロチンチョークを極めていますが、そのどちらもがハイエルボーによるものです。サム・シシリア戦では更に金網に相手を押し込み、吊り上げながらハイエルボーギロチンを極めるという衝撃の一本勝ちを挙げました。

マックス・ホロウェイアンドレ・フィリに片足を取られTDされながらも、カウンターのハイエルボーギロチンで見事に切り返した試合も素晴らしかったです。

 

※7…「Marcelo-tine=マルセロのギロチン」。寝技師マルセロ・ガッシアの使用により広く普及したことに由来する。

 

ベニテスの見事なハイエルボーギロチン。

終了後にベニテスがアピールとしてハイエルボーの組み方を披露してくれています。

ベニテスは腋と上腕を力点にしていますが、腹に頭をつけて力点とするパターンもあります。

機能美を感じるサブミッションです!

 

というわけでお気に入りテクニック十選、これにて終了です

好きな選手がいて、その選手のことを自分はなぜ好きなのか?

そう考えて調べていると、テクニックの面白い使い方や組み立て方をしていたりします

それが分かるともっとその選手や試合を好きになれて、観直すのも楽しくなります

それはMMAを好きなわたしにとって、とても有意義で充実した時間でした

それではまたノシ