『UFC 245 -Usman vs. Covington-』
2019年12月14日(土) Tモバイルアリーナ(ネバダ州 ラスベガス)
≪カレッジレスリング出身の最先端グラップラー二人が、王座戦で激突!≫
今年はUFC初のアフリカ出生&アジア出生の王者が誕生した記念すべき年になりました!
UFC初のアフリカ出生王者である第12代UFCウェルター級チャンピオン、カマル・ウスマンは、12月大会のメインイベントにて前UFCウェルター級暫定王者の挑戦者、コルビー・コヴィントンとの初防衛戦に挑みます。
王者ウスマンはカレッジレスラー、挑戦者コヴィントンもカレッジレスラー。
二人ともマイアさんとRDAに勝利しているという、最先端グラップラー同士の激突です!
カマル・ウスマン Kamaru Usman
"ザ・ナイジェリアン・ナイトメア"
国籍:ナイジェリア➡アメリカ合衆国
チーム:Hard Knocks 365
ルーツ:カレッジレスリング
主な経歴:NCAAレスリング D2オールアメリカン(×3回)
MMAノード:右フックorレベルチェンジTD ケージピンニング※1からのパンチ、膝蹴り
≪『ナイジェリアの悪夢』の継承者≫
カマルディーン・"マーティー"・ウスマンは幼少期にナイジェリアからアメリカへ移住し、言葉や人種の壁を乗り越えNCAA D2オールアメリカンの称号を得たカレッジレスラーです。
『ザ・ナイジェリアン・ナイトメア(ナイジェリアの悪夢)』のニックネームは、ウスマンと同じナイジェリア系のアメリカンフットボーラー、クリスチャン・オコエの異名から取られています。
オコエ本人から直々に激励を受け継承した『ナイジェリアの悪夢』のニックネームは、ウスマンが自身のルーツであるナイジェリアを背負う信念の象徴です。
試合開始時に行う、四つ這いの前傾姿勢から立ち上がりファイティング・スタンスへと変化するルーティンは、肉食獣のような獰猛さとパワーを備えたウスマンのトレードマークです。
≪『悪夢』を見せ続ける脅威のプレッシャー&タフネス≫
ウスマンは長い手足を活かした長打と捕獲力を持ち、絶え間ないプレッシャーをかけてケージに追い込み続けるパワーグラップラーです。
背筋を真っ直ぐに立て両腕を上げたアップライト・スタンスのまま、正面を見続けて接ぎ脚で歩く動きが特徴的で、これにより常に相手を正面に捉えたまま相手を追跡し、プレッシャーをかけ続ける事に成功しています。
ケージ際に相手を追い詰めてからは、パワーを活かした打撃とケージピンニング※1からのボディロック&シングルレッグTDを狙い、寝技に持ち込めばハーフガード等からピン&ポスチャーで押さえ込みつつパウンドで削っていきます。
常に相手の正面に陣取り、プレッシャーを与え続ける…『悪夢を見せ続ける』スタイルであり、それを完遂させるカーディオ※2とパワーを兼ね備えたタフネスがウスマンにはあります。
コルビー・コヴィントン Colby Covington
"ケイオス"
国籍:アメリカ合衆国
チーム:American Top Team
ルーツ:カレッジレスリング
MMAノード:オーバーハンドorレベルチェンジTD ジャブやロー、至近距離のアッパー
≪悪と嘯く『混沌』への誘い人≫
コヴィントンは高校時代の4年間でオレゴン州レスリング選手権を4連覇し、大学でもNCAA D1オールアメリカンに選出された最高位のカレッジレスラーです。
『ケイオス(混沌の神)』のニックネームはお母さんのノエル・コヴィントンから授けられたもので、自身の力をケージの中で証明する意味を持ちます。
コヴィントンはUSAの政治スローガンである『MAGA(再び偉大なアメリカを)』の赤帽子をトレードマークにしています。
リック・フレアーやチェール・ソネンを参考にしたというトラッシュトークで悪役を演じ、試合では「相手の脳細胞を破壊する」と語る激闘により相手を『混沌』へと誘います。
≪身体能力の爆発が生み出す『混沌』のスクランブル・ファイト≫
コヴィントンは強靭な両肩から繰り出すパンチの連打、そこから瞬時にTDへと連携させる身体能力の高さを活かした爆発力のあるレスリングスタイルを持ちます。
やや頭を屈め斜めに立ったボクシング・スタンスからボブ&ウィーブを混ぜてプレッシャーをかけ、ローキックやジャブ等の長打とオーバーハンドやアッパー等の強打を混ぜながらレベルチェンジTDを狙います。
至近距離ではケージピンニングからアッパーや肘打ちを打ち込みつつボディロック&ダブルレッグTDを仕掛け、寝技に持ち込むとポスチャーアップ&クロスボディライド等からパウンドで攻めていきます。
切れ目なく攻撃を混ぜ合わせ、スクランブル・ファイトの永続により疲弊させる…『混沌』の世界に相手を自分もろとも引き摺り込むスタイルであり、コヴィントンはその激闘を競り勝つ身体能力の強さと、状況処理能力の速さを備えていると感じます。
≪悪夢≫vs.≪混沌≫…試合の展望 ※読んでて疲れちゃった人は次の項目に進んで大丈夫です
卓越したレスリングにより相手をコントロールしてきた二人が、いよいよ対戦します。
ウスマンはデビュー戦からほぼスタイルを変えずに、武器を増やしてきたタイプですね~。
王座を獲ったウッドリー戦は常に先手を取り主導権を握り続けた素晴らしい試合でした。ウッドリーがアッパーで反撃を狙ったところで首相撲の膝蹴りで崩し、逆にアッパーを返して逆転の芽を潰したのは特に見事でした。
ウッドリーとのレスラー対決を制したウスマンですけれども、カウンター待ちのウッドリーとバンバン打撃を打って前進するコヴィントンはスタイルが違うので、その違いにウスマンがどう対処するのかが楽しみですね~。
コヴィントンはUFC初期の頃までオーバーハンドに頼りきりで、相手の打撃に下がってしまう事が多かったのですけれども、ボブ&ウィーブやジャブ、アッパー等のボクシング技術が組み合わさった事で、自分から攻撃を仕掛けられる積極性あるスタイルへと進化しました。
コヴィントンは最高位のカレッジレスラーであり、MMAの試合でも卓越した身体能力の強さと状況処理能力の速さを実感させられます。しかしカーディオとパワーはウスマンに軍配が上がると思うので、本当に一手で戦況が傾く試合であると感じます。
二人に感じている弱みを一点ずつ上げるとすれば、
ウスマンの場合は正面にどっしり構えるスタイルの代償として、頭部への打撃に対応が遅れるというところです。
特に最上位のグラップラーであるマイアさんとの試合では、TDを警戒するあまり左フックを被弾するシーンが目立ちました。
ウスマンは通常のオーソドックスから相手によってサウスポーに変化させて戦うスイッチファイターですが、マイアさん戦ではスイッチの最中を左フックで狙われる等、いつものようにTDのプレッシャーをかけられないことで弱みを見せた一戦だったな~と思います。
マイアさんがガス欠で失速した為に勝利できた試合だったと思いますし、これがコヴィントンだったら…というのは楽しみにしているポイントですね~。
コヴィントンの場合はパンチの振りが大きく、レベルチェンジTDを取られやすいというところです。
RDA戦では数回レベルチェンジTDを取られてしまっており、マイアさん戦でもスプロールで潰せたとはいえ何度もTDで潜られるシーンが見られました。
ウスマンのレベルチェンジTDはケヴィン・リー並に完成度が高いですし、コヴィントンが懐に潜られてしまう可能性は高いかもな~と感じています。
二人の場合はそこからのスクランブル&レスリング合戦も見どころであると思いますし、この瞬間の攻防にも期待したいですね~。
≪おわりに≫
今年のUFCはデミアン・マイアvs.ベン・アスクレンという『ザ・グレーテスト・グラップラー決定戦』が至高の試合の末にマイアさんの勝利で幕を下ろしたわけですけれども、そんなマイアさんに勝っている二人…ウスマンとコヴィントンのUFCウェルター級チャンピオンシップは、『ザ・レイテスト(最先端)・グラップラー決定戦』といえるでしょう!
レスラーとしての実績が高いコヴィントンがスクランブルの激闘を得意とし、野性味溢れるウスマンの方がMMAファイターとしてスマートなスタイルというのは、意外性があって面白いと感じますね~。
マイアさんがアスクレンの組みを捌いたことで打撃戦が展開されたように、ウスマンとコヴィントンもあえて打撃戦を選択する可能性は大いにあります。
しかし、前進して攻め続けるレスラーである二人はそれだけでは終わらない…TDを狙い合う展開も観られるといいな~と思いますね~
オールアメリカン・レスラーとして、MMAファイターとして…二つのプライドを懸けた二人の闘いに期待したいです!
※1 『ケージピンニング(Cage pinning)=ケージへの固定』
対戦相手をクリンチ状態でケージに押し込むこと。組み際の打撃やTDへ連携する。
『ケージコントロール(Cage control)』や『ウォールワーク(Wallwork)』は類似語。
※2『カーディオ(Cardio)=心臓』
心臓=心肺機能の高さ=ガス欠を起こさない持久力の高さを表す表現として用いられる。