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ミックスドマーシャルアーツ(MMA)という格闘スポーツについて、コラムや試合レビューを書いています。

UFCファイトパスで楽しむMMAの古典 ①南米の純正ヴァーリトゥード「IVC」【ブラジルMMA】

UFCファイトパスの膨大なアーカイブの中には、20世紀に存在した「古典」ともいえる格闘団体たちも貯蔵されています

 

MMA(ミックスド・マーシャル・アーツ)」という言葉が公式にこのスポーツを差す用語となったのは、1998年の『UFC 17』からといわれています。

20世紀は「MMAの始祖」となる「VT(ヴァーリトゥード)」の全盛期であり、未開拓の大地を切り拓く様に、各々が新たなる格闘概念の創出に向けて模索を続けていました。

「Extreme Challenge」「Icon Sport」「HOOKnSHOOT」「IVC」「International FC」…これらの団体は20世紀にVTがMMAへと成長を遂げる道筋に存在した「古典」たちです。

21世期を迎えて20年が経った今、改めてこれらの団体を振り返る価値があると感じます。

 

「IVC(インターナショナル・ヴァーリトゥード・チャンピオンシップ)」は「WVC(ワールド・ヴァーリトゥード・チャンピオンシップ)」から枝分かれしたブラジルの格闘団体で、純正のVTルールを採用していました。

IVCは裸拳(ベアナックル)による30分間の闘いであり、現代のMMAで禁止されている頭突き等の攻撃が認められていました。

狭めのリングの下部には転落防止のネットが張られており、M-1のレイジに近い構造が既に採用されていた事が分かります。

階級もヘビー級(+90kg)からミドル級(90kg)ライト級(80kg)フェザー級(76~77kg)と複数に分けられ、それぞれに王座も制定されました。

このようにハードな試合の裏側に近代的なルールの配慮がある事がIVCの魅力であると感じます。

 

「IVC 1」ではゲーリー・グッドリッジ金的攻撃によりペドロ・オターヴィオに勝利しました

グッドリッジはオターヴィオにトップを取られた際、ショーツの中に足や手を入れ睾丸を直接攻撃する事でピンチを脱しました。

第二大会からはルールで禁止されましたが、IVCのハードなルールを象徴した試合として有名です。

 

当時のトップ選手たちの剥き出しの強さを観られるのも魅力的です。

アンデウソン・シウヴァの師匠として知られるハファエル・コルデイロ首相撲から巧みなコントロールでヘンリー・マタモロスを翻弄し、「IVC 9」でフェザー級王座を手にしました。

後にキングスMMA総帥としてムエタイMMAの一大勢力を築いたコルデイロの片鱗が観られます。

 

ダン・セヴァーンUFCヘビー級初代王座決定戦でマーク・コールマンに敗れたその年に、「IVC 1」でエベンゼル・フォンチス・ブラガと激闘を繰り広げています

オールドスクールでスマートなレスラーの印象が強いセヴァーンが、闘争本能剥き出しで闘う姿は中々にショッキングです。

四つ組みを制して肘打ちの雨を降らせた際にはリング下部ネットに血が滲み、闘いのハードさを如実に語っています。

 

ミウトン・バイーアIVCきっての「頭突きの名手」で、トップポジションからパウンドのように打ち下ろす頭突きを得意としました

「IVC 9」のトゥリオ・パリャーリス戦では胸部に頭突きをぶちかまして一撃KOしており、「IVC 5」のエリック・タヴァリスでも相手をネットに追い込みながら頭突きの連打でTKO勝ちしています。

現代のMMAでは「禁じ手」とされる頭突きですが、トップポジションの選手にとって強力な武器である事をIVCの試合から垣間見る事ができますね。

 

アレックス・スティーブリングは前述のミウトン・バイーアたち四人のブラジル選手を一夜のうちに下して「IVC 14」無差別級トーナメントに優勝しました

IVCは16人制のワンデイ・トーナメントという過酷な試合をメインにしていましたが、中でもスティーブリングの鮮やかな優勝は記憶に残ります。

ヒールフックによる一本勝ちが二つ、ハイキックで秒殺KOが一つ。決勝戦裸絞めで一本勝ちしたスティーブリングは、後に「ブラジリアン・キラー」の称号を与えられました。

 

ハードな闘いが繰り広げられたIVCですが、レベルの高い攻防は現代のMMAにも通ずるものがあります。

ジョイル・ジ・オリヴェイラのルタ・リーヴリ式の投げ技と「ペレ」ことジョゼ・ランジジョンスの前手の捌きによるTD防御が拮抗する展開は正にグラップラーvs.ストライカの構図です。

カーロン・バヘットブランドン・リー・ヒンクルのパワーに苦戦しながらも劇的な逆転勝ちを収めた試合も、ブラジリアン柔術vs.アメリカンNCAAレスリンの激突としてお気に入りの一戦です。

 

「IVC」はMMA統一ルールが生まれる以前の団体であり、ブレイクを行わない為に20分以上トップキープが続く試合もありました。

ルールの無い闘いとは、決して激しい闘いばかりでは無いという事を実感します。

現代のMMAの完成度の高さを実感すると同時に、VTの未開拓ゆえの魅力にも気づく事ができ、両方を知る事で良いコントラストを感じる事ができました

 

UFCファイトパスでは、「IVC」以外にも前述した「Icon Sport」や「HOOKnSHOOT」も配信されています

せっかくUFCファイトパスに貴重なアーカイブが保管されているので、是非チェックしてみて欲しいです。

これからのMMAの未来を楽しむ上でも、一見の価値ありです!