シフティング(Shifting)は、元々はボクシング用語です。
正式な名前を「フィッツシモンズ・シフト」といい、19世紀晩年~20世紀初期に活躍した英国のボクサー、ボブ・フィッツシモンズという方の伝説のフィニッシュブローに敬意を表して名を授けられた技です。
パンチの慣性に合わせて対角線上の脚をシフト(重心移動)する事で死角に潜り込み近距離の致命打を打ち込む、という技術であり、これをMMAにアップデートしたのがTJ・ディラショーの「シフティング」といえます。
TJ・ディラショーはMMAの寝技の根幹からキックボクシング技術を有した選手であり、その体幹の良さとすばしっこさがこの複雑怪奇なスイッチ&フットワークを形にしたと思います。
根幹にあるのは「キックはパンチから生まれ、TDはキックから生まれ、パンチはTDから生まれる」というMMAのストライキング基本構造です。
ディラショーはこの三すくみの様な構造(実際はもちろん例外もあります)を利用して、複雑な連携攻撃で相手の虚をつくことに成功しました。
田村一聖からダウンを奪った一連の動きに、ディラショーのシフティングの一端を観ることができます。
右クロスから右ロー、そこからレベルチェンジ(ダッキング)しながらスイッチ、更にもう一度スイッチして再度レベルチェンジで上昇、慣性に乗ったまま踏み込んで狙い澄ました左の膝蹴り(ヘッドキック)…この間に実に5つ以上のフェイントが仕込まれています。
田村は決してディラショーの動きに反応できなかった訳ではありません。実際1ラウンドはかなり拮抗しており、空手のスタンスから先んじてディラショーの攻撃を読んで避ける様は見事です。
しかし、反応できるが故に、読めたが故にレベルチェンジ(ダッキング)に反応し、迎撃の体勢を取ったところにディラショーの罠に嵌ってしまいます。
相手の反応が速いからこそ、その反応を引き出して虚を突く…これがTJ・ディラショーの「強者を喰う」秘訣でした。
TJ・ディラショー以来多くの選手がシフティングを使いますが、いまだに彼の域に達した選手はいません。
唯一の対抗馬はコーリー・サンドヘイゲン。新世代のシフティング使いです。
来年はTJ・ディラショー vs. コーリー・サンドヘイゲンを是非とも観たいです。
それはシフティングの歴史…ひいてはMMAストライキングにおいて「この二人にしか開けない扉」を開くことになるでしょう!!
しかし、田村一聖戦でも倒れた後で余計な一発を入れるディラショー…やっぱり自制があんまり効かない人なんだよなぁ…😖💦