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ミックスドマーシャルアーツ(MMA)という格闘スポーツについて、コラムや試合レビューを書いています。

『UFC』王者の喉笛に噛み付いたコリアン・ゾンビ。「アジア軽量級最強の男」の闘い。

UFC駄文。あくまでいちMMAファンの感想としてお読み下さいorz
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ジョン・チャンソン

文字通り、王者に噛み付いたフェザー級アジア最強の男」の活躍。
「コリアン・ゾンビ(韓国の不死者)」と呼ばれ、メジャーリーグUFCで劇的な3連勝。
挑戦時に世界5位をマークした彼の闘いっぷりに痺れました。。



UFC 163』にてチャンソンがチャンピオンシップに選抜されたのは、「第二のオカミ」を見越した選抜であったと思います。
王者のホームでの防衛のため、最も隙が多く攻略のリスクが少なそうなチャンソンが選ばれたことは想像に難くありません。まずリカルド・ラマスが選ばれることは無かったでしょう。

しかし同時にチャンソンには今まで見えなかった王者アルドの「穴」をつける男でもあり、それによる試合のスイング、アップセットを見越していたのもまた事実だったと思います。

それは喉笛に噛み付いて放さない「獣性」であり、危機から死にもの狂いで逃れる「ハングリーさ」でありました。

王者アルドの破ってきた挑戦者たちに共通することは、誰もアルドよりハングリーな男はいなかった、という事です。
WEC王座を剥ぎ取ったマイク・ブラウンから始まり、スター選手のユライヤ・フェイバー、緻密なスタンディングを武器としたマーク・ホーミニックとケニー・フロリアンレスリングエリートで新人であったチャド・メンデス、そして高速のボクシングと折れないハートを持つフランキー・エドガー。

スタイルの違いはあれど、彼らは全員「コンプリート・ゲーム」を目指すスマートな部分を持っていました。そしてそこに「獣性」を叩き込み彼らのコンピューターを壊していったのがジョゼ・アルドという王者です。
彼らは皆王者の予想外の動きとパワーそして圧力におされ、自分のコンピューターのはじき出す危険信号に翻弄されエラーを起こしました。

しかし、ここにきて初めてアルドと同質の強さを持つ男が現れました。ジョン・チャンソンです。
彼の試合には「完全試合」というものは存在しません。とにかく予測不能で神出鬼没、閃きと瞬時の判断力がものをいう彼の実戦型スタイルは、海を越えた人々をも納得させる独自の魅力を持ちます。
それはキム・ドンヒョンを代表とする、パワーを前面に出した多くの韓国ファイターの重戦車スタイルとは一線を画すもので、長いリーチと相まってオンリーワンの強さを生み出しました。

果たして1万5千から浴びせらる無遠慮な罵声の数々に晒されたチャンソンの、図太さたるや。
向かいあったとき、その身体の大きさに驚かされます。明らかに日本で闘っていたころの、WEC時代のフィジカルとは明確に違うぶ厚い肉体。
それでも緊張は隠せません。1Rは固く、探りを慎重に入れていました。
しかし1R最後の攻防で「スイッチ」が入ります。そして2Rからはその獣性が頭をもたげてきたのです。

対するアルドはこれまでにないリーチ差に、クレバーな試合展開を強制されます。これまでの挑戦者には通じた、「ビビらせる」スタイルはチャンソンには通じません。逆に自身の冷静さと向き合い、的確に当てる「コンプリート・ゲーム」を強いられたのはアルドでした。そしてここにアルドの穴があります。
王者はあまりにも才能溢れるために、劣勢の対処がやや遅れがちです。というより、本能に任せた獣のようなスタイルは、反対にそれと同等かそれ以上の獰猛さに出会うと萎縮し、闘争は逃走へと切り替わります。「エサ」でないものに噛み付き傷つく理由はないからです。
その本能と、王者として、一人の青年としてのベルトへの執着心の両立。
それがアルドの強さの本質であり、この試合でも明確に1、2Rを取ったのはその「執念」があったからです。

そしてついに3R、その「執念」を挑戦者が上回るシーンがやってきます。
2Rを取った王者は「コンプリート・ゲーム」を意識し、確実にRを取れる(また有利に仕留められる)テイクダウンを狙います。他の挑戦者であるなら、カブ・スワンソンやエリック・コクであるなら…ここでテイクダウンを取られていたでしょう。

しかしチャンソンは膝をたたみ背中をつけることを許しず暴れまくります。そして王者の顔面に拳を、肘を叩き込み、侵入を跳ね返しました。テイクダウンに失敗した王者は明らかに集中力が薄れ、そこにチャンソンの「獣性」が火を噴きます!逆に上を取りパウンドを叩き込んだところでRが終了。3Rを見事に奪取することに成功し、流れも引き寄せたのでした。

この後4Rの展開についてはご存じのとおり、冷静さを修正し直したアルドの攻めの中でチャンソンが出したオーバーハンドが外れ、事故的に肩を脱臼してしまったチャンソンがそのまま畳み込まれTKO負けを喫しました。焦がれつづけたベルトに、欲しかった王座に一歩届かなかったチャンソン。そして冷静な修正力とともに悪運の強さも見せつけたアルドのもとに、ベルトはまたしても収まったのでした。

それでもこの結果は大健闘であるといえるのではないでしょうか。
同時に、与えられた使命を全うし、与えられたチャンスを勝ち取るため最大のサバイバルマッチをしかけたチャンソンは、多くの可能性を残し、王者への打開策も切り開きました。
更にこの会場は、ブラジル人以外に徹底的な罵声が飛び交うブラジル大会であり、そこで自分の過去最大の試合を見せつけた男の力を、もはや疑う者はいないと思います。
これで終わる男ではないでしょう。個人的な問題はあるでしょうが、更なる高みへ昇るであろうアジア最強のチャレンジャーの活躍に期待せずにはいられないです。

彼には、チャレンジャーとして、ファイターとして必要な要素が備わっていました。

図太さ、ハングリーさ、執念深さ、イレギュラーなスタイル。

どれもがあまり賞賛されることのないネガティブな意味でつかわれますが、こと「闘争」の場において、これ以上に褒められる特技はありません…それが他人の行動を期待したものでなく、自ら切り開くために使われる特技であるならば。

同時にアルドにも、王者として必要な要素が揃っていました。

劣勢からの修正力、チャンスを逃さぬ判断力、力を温存するディフェンス力。
何よりもベルトを手放さない「執着力」がありました。


それは王者として最も大切な意志であり、それを持っているがゆえにアルドはこれまでも、そしてこれからも王者の権限を失うことはないでしょう。彼の執着心を超え、冷静さを剥ぎ取る猛者が現れるまでは。

闘技は戦闘能力による傷つけ合いであり、同時に生存本能の試し合いでもあります。
自分の弱さと向き合い、向上心を忘れ経ぬ者だけが頂点への切符を手にし、更に生存へのあらゆる努力をした者に好機が訪れます。

闘技の本質を、MMAの可能性を見せてくれたジョン・チャンソンに、拍手と感謝を送りたいです。
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技術的に差もあったんですけれども、僕が何より注目しているのは心技体の「心」です。
あんまり自信が無いのでMMA論とか書かないんですけども、こういう熱い試合を観ちゃうと、そのうちなんか書いてみたいな~という気持ちになっちゃいますね~。
なにはともあれジョン・チャンソンありがとう!!!!!!!