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ミックスドマーシャルアーツ(MMA)という格闘スポーツについて、コラムや試合レビューを書いています。

【世界初】MMA×ムエタイ!『GRACHAN 19 × BOM 9.5』レビュー【大田区総合】


観てきたので!

GRACHAN 19 × Battle of Muay Thai 9.5
開催日: '15年9月19日(土)
開催地: 大田区総合体育館(東京)
試合数: 25試合(GRACHAN12試合 BOM13試合)
試合場: 8角ケージ(GRACHAN) リング(BOM)
総開催時間: 8時間(13:30~21:30)
入場料: 7000円~30000円(+ドリンク代500円)
パンフレット: 各500円
物販:GRACHAN(キャップ等) BOM(シャツ等)
売店:お酒、お肉中心 ドリンク&菓子250円(ドリンク代チケットと2個交換)
主催者:岩崎ヒロユキ(GRACHAN代表)、中川夏生(BOM代表)
 

ケージとリングを併設して開催された本大会。
それは即ちMMAムエタイの本気の交流」でした。
他団体に数試合だけ混ざる「交流試合」とは違う…それぞれのトップ選手が何試合もガッツリと試合を行う「交流大会」は非常に満足する内容でした。
興奮の冷めないうちに、観戦&試合の観想を書いておきます。

【α、BOMレビュー】…スタジアム戦士も登場!ムエタイの醍醐味を堪能!
BOMはバトル・オブ・ムエタイ(Battle of Muay Thai)の略称。
肘打ち、膝蹴り、首相撲の解禁されたムエタイルールの団体で、世界プロムエタイ連盟WPMF)ランキング戦やラジャ&ルンピニーのスタジアム戦士との挑戦カードも組まれていました。
素直な感想としてはムエタイ面白い!」の一言に尽きます!
キックボクシングは観た事があってもムエタイはしっかり見た事が無かったので、新しい発見がたくさんありました。

特に面白かったポイントとしては
1,競技としての完成度が高く、序盤の選手から動きが洗練されていた。
2,肘打ちや首相撲を含めた攻防を通して、ムエタイの本質的な部分に触れる事ができた。
3,トップレベルの選手たちが個性的で、それぞれの強さを魅せる試合をしていた。
4,伝統派空手やボクシング等の要素をミックスさせた選手もいて、団体としての幅広さを感じた。
といった感じでした。

【β、GRACHANレビュー】…4階級で進む王座戦線!「積み重ね」の強さ!

日本ケージMMAの先進的団体「CAGE FORCE」が休止から3年後。
いち早く本格的にケージMMAを取り入れた団体のうちの一つが、GRACHANです。
当初はストリート系の色が強かったですが、'12年に行われたバンタム級の4人制王座決定トーナメントが行われ、MMAとしての質の高さに驚いたのを覚えています。
当時の国内ではかなり広いケージの中で、ケージを使った激しいテイクダウンの攻防&キワの打撃の打ち合いが繰り広げられており、見応えがありました。
何より「王座戦線」を作らんとする団体の本気度を感じられた事が良かったです。


初代王座決定Tの決勝戦、友田vs.若菜。ケージ際の激しい攻防が展開されました。

トーナメントで生まれたバンタム級のベルトは、熱い試合を通して価値を高めてきました。
力強いケージレスリングで王座決定トーナメントを制覇した初代王者、友田隆志。
友田をインファイトで追い詰め、ストレートでKO勝利した第二代王者、中村謙作。
謙作との二度の接戦を経てベルトを手にした第三代現王者、手塚基伸。
王座を巡る熱い戦いが、GRACHANのMMA団体としてのターニングポイントとなりました。

そして現在。
バンタム級フェザー級の2人の王者に加え、フライ級&ライト級でも王座決定トーナメントが開催。
フライ級の決勝戦は今大会で行われ、ついに3人目の王者が誕生しました。
MMA団体としての「積み重ね」が生んだ、4つの階級での王座を巡る戦い。
まさしく「王道」を作り出さんとする、本気の挑戦に期待していきたいです!!

ちなみに現存するGRACHANのベルトは、3本ともデザインがまったく違います。
1本目のバンタム級ベルト(手塚が所持)は金色で丸いデザイン。
2本目のフェザー級ベルト(大澤が所持)は銀色で金網をあしらった銀色のデザイン。
3本目のフライ級(今大会でお披露目)は金色でUFCに近いガッシリとしたデザイン。
団体としての統一感の為に、これからデザインは揃っていくのでしょう。
しかし、このバラバラのデザインこそ、上記のようにストリート系から「王道」を作らんと思考錯誤してきた、運営の人たちの「積み重ね」の象徴だとも思います。
このバラバラのベルトに誇りを持って、統一後も大事に残して欲しいですね~。

【γ、MMAムエタイ階級表】…同名でも体重は違う!早見リスト!

試合感想の前に。
MMAは現在男女含めて10の統一階級がありますが、WPMFは19階級!もあります。
同じ名前の階級でも体重が違って分からなくなっちゃうので、比較してみました。
分かりやすいようにWBC(ボクシング)の階級も併記してみました。参考にでも。
※lbs基準、kgは小数点第二位を四捨五入しています。

lbs / kg MMA WPMF WBC
上限無し   スーパーヘビー級 ヘビー級
265lbs / 120.2kg ヘビー級    
210.4lbs / 95.5kg   ヘビー級  
205lbs / 93kg ライトヘビー級    
200lbs / 90.7kg     クルーザー級
190lbs / 86.2kg   クルーザー級  
185lbs / 83.9kg ミドル級    
175lbs / 79.4kg   ライトヘビー級 ライトヘビー級
170lbs / 77.1kg ウェルター    
168lbs / 76.2kg   スーパーミドル級 スーパーミドル級
160lbs / 72.6kg   ミドル級 ミドル級
155lbs / 70.3kg ライト級    
154lbs / 69.9kg   スーパーウェルター級 スーパーウェルター級
147lbs / 66.7kg   ウェルター ウェルター
145lbs / 65.8kg フェザー級    
140lbs / 63.5kg   スーパーライト級 スーパーライト級
135lb / 61.2kg バンタム級 ライト級 ライト級
130lbs / 59kg   スーパーフェザー級 スーパーフェザー級
126lbs / 57.2kg   フェザー級 フェザー級
125lbs / 56.7kg フライ級    
122lbs / 55.3kg   スーパーバンタム級 スーパーバンタム級
118lb / 53.5kg   バンタム級 バンタム級
115lbs / 52.2kg ストロー級 スーパーフライ級 スーパーフライ級
112lbs / 51kg   フライ級 フライ級
108lbs / 49kg   女子ライトフライ級 ライトフライ級
105.2lbs / 47.7kg   女子ミニフライ級  
105lbs / 47.6kg 女子アトム級   ストロー級
女子ミニフライ級
102lbs / 46.3kg     女子アトム級
100.2lbs / 45.5kg   女子ピン級  


こうして観るとムエタイとボクシングはほとんど同じですね~。
MMAも競技人口がどんどん増えていけば、階級も増えていくのだろうな~と思いますね。

それでは感想の発表です!まずはBOM(ムエタイ)から!

【δ、BOM試合観想】…本格ムエタイ初体験!ランキング!

1位
-WPMF世界バンタム級暫定チャンピオンシップ-
林敬明(WPMF世界7位) vs. 竹内将生(WPMF世界6位)


2人の日本人世界ランカーが暫定王座を懸けて激突した一戦!
勝者は12月に総本山タイで現王者コンギエット・トープラン49(Kongkiat Tor.Pran 49)との王座統一戦を行う事が決定しているとの事で、この試合はいわばWPMFバンタム級の頂点へのトップコンテンダー戦でした!!燃える展開だー!!

1R
開始からネオムエタイを標榜する林が果敢に前に出て攻撃を繰り出します。
竹内は鋭い蹴り飛ばすローキック(ジョゼ・アルドのような蹴り)や肘打ちで応戦。
林の膝蹴り&ストレートの同時打ち(スーパーマンパンチのような形にになる)によって竹内が怯んだ所で林が一気にステップイン!
ステップの勢いを乗せた林の強烈なエルボーが炸裂!
竹内は吹き飛ばされるようにダウン!

2R
林の勢いは衰えを見せず。
素早いステップとスーパーマンパンチ&膝蹴りの応酬に竹内は主導権を取り返せない。
林のステップインエルボーがまたも炸裂!ダウン!
さらにもう一度ダウン!!!

3R
ダメージの深い竹内に林は一気に詰め、肘打ちで竹内が大の字!!レフェリーストップ!
合計4回の衝撃的ダウンを取った林が見事なKO勝利で頂点への切符を手に入れました!!

とにかく一撃一撃の攻撃力の高さがレベルの高さを物語っていました。
その中でも林が見せたステップワーク×エルボーの高機動ムエタイは印象的でした。
「ネオムエタイスタイル」の看板に偽りなしでしたね~。
素早いステップ&間隙の無いアグレッシブな攻撃で「攻城戦」のような試合で竹内の城を攻め落としました。
この戦法、現王者コンギエットにも通用するのか非常に興味ありますね~。
王座統一戦に向けて、ネオムエタイに磨きをかけて挑戦して欲しいと思います!

敗れた竹内もローキックの威力が印象に残っています。
王道的ムエタイのスタイルが美しかった。
これからもスタイルを強化させて頂点を目指して欲しいと感じました!

林敬明 Takaaki Hayashi
出身:三島市静岡県
プロデビュー:'10年
階級:バンタム級WPMF同級世界7位→暫定王者
所属:TSK japan
タイトル:WPMF世界バンタム級暫定王座('15年)
      蹴拳バンタム級王座('15年)
格闘家以外の職業:獣医


林の入場では謎の黄色い3人組がリングに上がって生歌&演奏を披露!
どうやらオハギンズという本来は9人のチームによる「絆」という曲(林の所属するTSK japanのテーマ曲だそうです)でした。
けっこう良い曲でしたしPVも良かったので、もう一回ちゃんと聴きたいかな~。

竹内将生 Masaki Takeuchi
出身:寒川町(神奈川県)
プロデビュー:'12年
階級:バンタム級WPMF同級世界6位→?)
所属:エイワスポーツジム
タイトル:WPMF世界バンタム級日本王座('13年、'15年)
マチュアK-1甲子園東日本準優勝('11年)


竹内の所属するエイワスポーツジムの応援は多かったですね~。
その時だけ歓声が大きくなるので分かりやすく、いつの間にか心の中で「エイワ勢」と自然に呼ぶようになりました(笑)
「おー、エイワ勢きたな!!」と言う感じですぐに分かりましたね~!

2位
-WPMF日本スーパーバンタム級-
ワンチャロン・PKセンチャイ vs. ユウ・ウォーワンチャイ


ムエタイの最高峰、ラジャダムナン&ルンピニーの2大スタジアム。
そのスタジアム戦士の一角であるワンチャロンが来日し、弱冠19歳のユウが挑戦するというチャレンジマッチでした。
ワンチャロンは元ルンピニー二階級王者、現スーパーフライ級ラジャダムナン1位&ルンピニー5位というまさにムエタイ界のトップランカー。
今回はユウの適正体重であるスーパーバンタム級…つまりワンチャロンにとって二階級差のハンディキャップマッチですが、それほどの強さがあるという事でしょう。
階級の差を感じさせる体格の二人が向き合い、試合が始まりました。

1R
本場ムエタイ戦士らしく、1Rは淡々と攻撃しつつ相手の実力を査定していくワンチャロン。
ユウは右ハイキックが冴える。積極的に攻めて行くユウ。
ワンチャロンは下がりつつハイ、ミドル、ローを使い分け、的確に捌いていく。
終盤に蹴り合いをして終了。いよいよ本格的に試合が動くか。

2R
動き出すワンチャロン。体格差をモノともせず圧力でユウを下がらせる。
コーナーに詰めた所でミドルキックが直撃!!
ユウはダウンし、動くことができない!
ワンチャロンがスタジアム戦士の強さを知らしめるような貫禄の完全勝利をあげました!!

ワンチャロンは結界を張るタイプでは無く、肘&蹴りの威力と回転数でプレッシャーをかけて行く超攻撃的なムエタイが印象的でした。
スタジアム戦士を生観戦して、その強さを観れた事は非常に嬉しかったです。
ユウはハイキックの正確さが良かったですね~。19歳のムエタイ戦士の将来にも期待です。

ワンチャロン・PKセンチャイ Wanchalong P.K.Senchai
フルネーム:ワンチャロン・PKセンチャイムエタイジム(วันฉลอง พี.เค.แสนชัย มวยไทย ยิม)
ニックネーム:サイ・アンタパン(ซ้าย อันธพาล、直訳すると"左の不良少年")
生年月日:'86年11月11日(現28歳)
身長:160cm
体重:53kg
出身:カーラシン県(タイ東北部)
プロデビュー:'94年
階級:スーパーフライ級(同級ラジャダムナン1位、ルンピニー5位)
所属:PKセンチャイムエタイジム ← シットソーノンジム(Sitsornong Gym、ศิษย์ซ้อน้อง ยิม)
タイトル:ルンピニー認定ライトフライ級王座('09年)
      ルンピニー認定スーパーフライ級王座('11年、'13年)
      TV7フライ級王座('10年)
      TV7スーパーフライ級王座('13年)


ちなみにワンチャロン曰く最強のムエタイ戦士はセンチャイとパコーンで、好きなムエタイ戦士はブアカーオだそうです(笑)
最もハードだった試合には'12年のペンタイ・シンパトーン戦をあげています。

肘打ちのペンタイ(赤)vs.蹴りのワンチャロン(青)の大血戦!!

大田原友亮 Yusuke Otahara
リングネーム:ユウ・ウォーワンチャイ(Yu Wor.wanchai)
出身:東京都
プロデビュー:'07年
階級:スーパーバンタム級
所属:ウォーワンチャイムエタイジム ← B-FAMILY NEO
タイトル:UKF世界スーパーバンタム級王座('14年)
     TRIBELATEキックフェザー級王座('12年)
親族の格闘家:大田原虎仁(弟、トラ・ウォーワンチャイ)、大田原穂乃香(妹)


ところで、ユウのPVで「ビッグマウスは真実か!?」みたいな煽りがあったんですけど、
PVみる限りビッグマウスはお父さんの方ですよね?(笑)
それはとても気になりました。w

3位
-WPMF日本スーパーフライ級-
伊藤勇真 vs. 若山龍嗣


「ユーマ・ウォーワンチャイ」としてラジャダムナンに挑戦し続ける元WPMF日本フライ級王者の伊藤。
試合内容はそんな伊藤のまさしく首相撲の「横綱相撲」でした!
果敢に攻める若山のパンチを受け止めては投げ、受け止めては投げ。
離れるやミドルキックを撃ち込み確実にヒットを重ねる。
一撃を狙う若山を最後まで捌ききった伊藤が盤石のユナニマス判定で勝利しました。

何といってもこの試合、首相撲が堪能できたという事が最高に嬉しかったです。
首相撲はあまり日本だと観られないので、首相撲が戦術に本格的に混ざる「本物のムエタイ」というのは大会観戦でなければ観られないと思います。
今回のムエタイに本格的に触れるチャンスで、それがついに観られたのは大きな収穫でした!

特に面白かった事は二つ。
一つは、様々なバリエーションの首相撲を堪能できたという事です。
単純に正面から両手で相手の後頭部を抑える「膝蹴り型」
自分のパンチを打ちながら相手の片腋を差して後ろ手を組んで投げていく「肩固め型」
相手のパンチをしてきた腕に絡ませ、顔を押して突き放す「ストレートアーム型」
「肩固め型」から頭を潜らせ横&後方に回って膝蹴りを打ち込む「モモカン型」
…名前は適当で正式名称がある気がしますが、サッと思い出しただけでも4パターン。
攻撃の首相撲もあれば、防御の首相撲もある。
状況によってそれを使い分ける事で相手を裁き、コントロールしている。
改めて首相撲という技術の面白さを感じました。

もう一つは、ムエタイの「結界」の強さを観ることができた事です。
伊藤は若山の攻撃を首相撲やキャッチ、足払いで裁く事で戦意を削ぎ、強烈なミドルキックやハイキック、ロングストレートを打ち込む事で「結界」を作り出し勝利しました。
自分が動き回るのではなく、相手を下がらせ、意図する方へ動かしていく。
「結界」によって、実際のダメージ以上に強さを印象つけて勝利する事が、100を超える試合数をこなせる秘密なのかもしれないと思いました。
首相撲の禁止ルールでは十分に観れない「結界」も堪能できて、多くの発見があったのが良かったですね~。

伊藤は次戦が決まっているとの事で、世界王座へ向かって頑張って欲しいですね~。
若山も伊藤の「結界」にここ折れずに最後まで攻めるガッツを観せてくれました!

伊藤勇真 Yuma Ito
リングネーム:ユーマ・ウォーワンチャイ(Yuma Wor.wanchai)
出身:名古屋市(愛知県)
プロデビュー:'12年
階級:スーパーフライ級 ← フライ級
所属:キングムエ
タイトル:WPMF日本フライ級王座('14年【防衛1】)


若山龍嗣 Ryuji Wakayama
本名:若山立嗣
出身:仙台市宮城県
プロデビュー:'07年
階級:スーパーフライ級
所属:ドラゴンジム
タイトル:J-NETWORKスーパーフライ級王座('13年、'15年)
     DBSスーパーフライ級級王座('13年【防衛2】)
格闘家以外の職業:介護福祉士


その他の試合では、ロングリーチのムエタイ使い牧野智昭がテクニカルな試合運びで村井崇裕を裁いてWPMF日本スーパーウェルター級新王者になりました。
その他にはガッシリした長身の圧力とローキックが光る遊佐真介と体格差に負けずに飛び込みフックで一撃を狙い続けた関谷勇次郎との試合や、ローキック連打でダウンを先取した渡辺優太とそこから縦肘や膝蹴りで反撃しドローに持ち込んだ立澤敦史との試合も熱かったですね~。
序盤の試合でも伝統派空手のようなステップで翻弄した岩尾力とローキックで徐々に岩尾の勢いを封じたレック達也・ルークカムイ戦、極真空手出身の堤大輔と肘打ち連打のムエタイ使いJ(ジェイ)戦など、様々なスタイルの戦いを観られました。

続いてGRACHAN(MMA)の観想です!!

【ε、GRACHAN試合観想】…それぞれの王座戦線!ランキング!

1位
-GRACHANフライ級初代王座決定トーナメント決勝戦-
鈴木隼人 vs. 児玉己吏人


GRACHAN3本目のベルト…フライ級王座を懸けたトーナメントの決勝戦です!
日本体育大学レスリング部出身、高い身体能力のバネから放たれるテイクダウンが武器。
打撃とのコンビネーションも進化を見せ、一気に頂点を狙うレスラータイプ鈴木
過去に鈴木のレスリングスキルに抑え込まれ、肘打ちカットでTKO敗け。
リベンジを狙う柔寝&ムエタイベースの長身グラップラー己吏人(きりひと)
鈴木のテイクダウンに己吏人が如何に対応できるか、そこに注目した一戦でした。
リラックスする己吏人、己吏人の前で足を踏み鳴らしボルテージを高める鈴木!
エース誕生か、リベンジ達成か。運命のブザーが鳴り響きました!

1R
身体を低く折り畳み、フリッカーのような軽いパンチで牽制する己吏人。
鈴木も細かくプレッシャーをかけながら、徐々に二人の距離が近づいていく。
鈴木がテイクダウン!…のスピードに乗せたフックを繰り出す!!!
己吏人に直撃!倒れ込む己吏人をテイクダウンした鈴木。
パウンド連打でレフェリーストップ!!

試合は一瞬でしたが、鈴木の計算された戦略が完璧にハマったと思いました。
己吏人に前戦に刷り込んでおいた「テイクダウンの脅威」。
それを逆手にとった意識を散らしておいてからの、本命のフック。
完璧に被弾してしまった己吏人、初撃で勝負はついていました。

MMAにおいて、自分の選択肢を増やし相手の選択肢を奪うのは最重要な戦術の一手です。
しかし実現の為には、時に安全な道を捨て、勝負に出なければなりません。
この大一番でそれを実行してみせた戦術のセンス。
距離の測りかねる初撃でそれを実行してみせた度胸。
そしてKOを可能にしたレスリング仕込みの優れた身体能力のバネ。
これぞ「MMAの勝利」という見事な勝ち方でした。新王者の誕生です!!

一方で敗れた己吏人。長身から繰り出す打撃&寝技を見せられず、悔しい敗戦となりました。
MMAにおいてテイクダウン…打投極の「投」は試合を支配する最も重要な技です。
テイクダウンで主導権を握られてしまう事、その恐ろしさを感じた敗戦でした。
しかし選手の個性によって強みが変わるのもまたMMAです。
己吏人の「個性」を活かした新たなスタイルの進化と復活に期待したいです。

鈴木隼人 Hayato Suzuki
出身:高萩市茨城県
プロデビュー:'12年
階級:フライ級
所属:BRAVE
タイトル:GRACHANフライ級王座('15年)
MMAファイターになる以前の競技経験:高校&大学レスリン


BRAVEも応援が凄かったですね~。五分の一くらいBRAVEだったかも。
日本MMAレスラータイプの代表格である宮田和幸の弟子である鈴木。
宮田さんがMMAで培ってきた物を継承する選手が現れたのも嬉しいですね~。
試合後にはUFC行きを宣言した鈴木。正直国内に留まらず世界戦を経験していって欲しいです!

児玉己吏人 Kirihito Kodama
出身:姫路市兵庫県
プロデビュー:'11年
階級:フライ級 ← ストロー級
所属:パラエストラ東京
マチュア:全日本アマチュア修斗準優勝('11年)
MMAファイターになる以前の競技経験:バスケットボール


己吏人(きりひと)という名前は12月25日に生まれである事から、イエス・キリストに因んで付けられたんだそうです。
ガードワークの上手さにムエタイの攻撃力も増している己吏人。
更に試合の決定力となる「突き抜ける要素」を持てるかにも注目したいです。

2位
-GRACHANフェザー級チャンピオンシップ-
大澤茂樹(同級王者) vs. 原井徹(挑戦者)


フェザー級王者、大澤の初防衛戦。本大会25試合のメインイベントを務めました。
大澤と挑戦者の原井とは、フライ級の鈴木&己吏人と同じく再戦の間柄。
但しショートスパンの二人と違い、こちらは09年以来6年ぶりの再戦となりました。

大澤はフリースタイルレスリングの実績を見込まれ、22歳で戦極育成選手に選出。
戦極休止後は修斗やGRACHANを主戦場に、スタイルを模索してきました。
そして現在。
持ち前の機動力を活かした左フックの強化により、レスリング×左の強打という決定力を確立させた大澤。
咲田ケイジをパウンドアウトし、見事GRACHANフェザー級初代王座を手にしました。
更に直近には修斗宇野薫に左を炸裂させKO勝利。
強い王者として初防衛戦に挑みます。

原井は戦極育成選手時代の大澤と同団体の育成トーナメント「戦極G!杯」決勝戦で対戦。
大澤がパウンドアウトで優勝し、原井は準優勝でした。
原井はDEEP、GRACHAN、HEAT、更に海を渡り韓国Road FCにも出場。
タフな相手との武者修行を続ける事で実力を磨き、4連勝をマーク。
ついに自身初となる王座への、またリベンジの相手への挑戦権を手にしました。

6年間の月日が二人をどう成長させたのか。
自らのスタイルを確立させたチャンピオンが盤石の防衛を果たすか。
チャンピオンへのリベンジに燃える挑戦者の牙が突き刺さるか。
向き合うと原井の方が体格が大きい。8時間の長丁場を締める一戦のブザーが鳴りました!

1R
原井がオーソドックスにどっしりと構え、強烈なミドルキックで結界を張ります。
大澤はステップインからのパンチ&テイクダウンを狙いますが、原井はテイクダウンには前蹴りで、パンチにはミドルキックで先手を取り近づかせません
攻めあぐねる大澤はケージに押し込みテイクダウンを狙うも、原井は尻もちで堪えきります。

2R
ここでも原井の蹴りの結界に大澤は攻めきれません。
原井はハイキックやストレートも繰り出し、やや軽めの当たりながら確実にヒットを重ねていきます。
それでも大澤が終盤にテイクダウンに成功。抑え込んで最終ラウンドに繋げます。

3R
追い詰められた大澤、ここで果敢に前に飛び込み左の強振を振っていきます。
原井も応戦しヒットさせますが、左ストレートを被弾するなど徐々に結界に入られます。
それでもハイキック等確実にヒットを稼ぐ原井。
終盤に大澤が蹴り足をキャッチし倒して試合終了。

判定は一人が原井、二人がドロー。よって大澤のドロー防衛となりました。

辛くもベルトを守った大澤。非常に追い詰められた厳しい試合でした。
MMAのスタイルの完成は、同時に恰好の研究材料になるという事です。
昨日までの定石が今日崩されない保証はどこにも無い。
だからこそ進化するし面白いのがMMAです。

大澤のテイクダウン&左フックという二つの武器の対策をしっかり考え実行した原井。
「対大澤必勝戦法」はほぼ成功していました。本当に僅差でした。
大澤がスタイルを確立したのは最近です。
つまり原井はリベンジに燃え、大澤を倒さんと研究を重ねていた。
それだけ勝利したかったという事なのでしょうね。
その執念を感じられ、素晴らしいと思いました。
但し執念は大澤にもあり、それがベルトをギリギリで守りきったのだと思います。
原井も籠城に徹して攻撃をまとめられなかった事が、勝ちに一歩届かなかったのでしょう。
それでもマストジャッジなら原井の内容でした。本当に見事な試合でした。

大澤も自身の弱点を改善して、次戦では完全勝利での防衛を目指して欲しいですね。
もしかすると再戦もあるかも?
そうなったらそれも楽しみですね!!!

大澤茂樹 Shigeki Osawa
出身:牛久市茨城県
プロデビュー:'09年
階級:フェザー級
所属:ハニートラップ← フリーランス ← SRC本部道場
タイトル:GRACHANフェザー級王座('14年【防衛1】)
     戦極G!杯フェザー級トーナメント優勝('09年)
MMAファイターになる以前の競技経験:フリースタイルレスリン


大澤は戦極育成選手の頃から観ている選手なので、ついにここまで来た!という感じです!
エリート枠で入ってきて、団体が休止してMMAから離れてもおかしくなかったのに、それでも地道に試合を積み重ねて王者になった大澤。
まだ29歳。ここを終着点にせず、出発点として突き進んで欲しいです!頑張れ~!

原井徹 Toru Harai
出身:下松市(山口県
プロデビュー:'06年
階級:フェザー級
所属:フリーランス ← 毛利道場
タイトル:戦極G!杯フェザー級トーナメント準優勝('09年)
マチュア:全九州アマチュア修斗優勝
MMAファイターになる以前の競技経験:柔道


原井も大澤と同じ29歳。まだまだリベンジのチャンスはあります!!
一つ一つの技術が丁寧で、Road FCでのタフな試合を制しての一本勝ちなど精神力も強い。
この積み重ねが結実する日が観たいと思わせる、実直な試合でした!

3位
-GRACHANバンタム級-
中村謙作(同級前王者) vs. 大金剛


第二代バンタム級王者、柔道出身のインファイター謙作の復帰戦です。
謙作は吉田道場出身、柔道ベースながらキックボクシングを武器とするストライカータイプの選手です。
特にダッキングからのインファイトに強みがあり、素早い出入りで相手を翻弄しながら戦うテクニカルさも魅力です。
しかし現王者、手塚基伸にはテイクダウンの主導権を握られ苦戦。
一度はドロー防衛するも、再戦で敗れ謙作はベルトを失います。
更に復帰後二戦目の佐々木郁矢戦で出入りの攻防のなか強打を喰らいKO敗け。
リベンジをかけたトーナメント一回戦では斉藤洋二に敗れ、厳しい状況にいました。
フィジカルの厚さを武器にプレッシャーをかける大金に1Rは踏み込みきれなかったものの、2Rにダッキングからボディ連打で動きを止め、膝蹴りからパウンドアウト。
フィニッシュの義務付けられた試合でしっかりと結果を残しました。

謙作の敗れた挑戦者決定トーナメント決勝では、謙作に勝った斉藤&佐々木が対戦。
テイクダウンから確実に抑え込み続けた斎藤が優勝し、11月末に手塚に挑戦します。
謙作の再挑戦の道はまだ先でしょうが、もう一度ベルトを巻く姿も観たいと思っています!

中村謙作 Kensaku Nakamura
出身:八代郡熊本県
プロデビュー:'08年
階級:バンタム級フェザー級ウェルター
所属:吉田道場
タイトル:GRACHANバンタム級王座('13年【防衛1】)
MMAファイターになる以前の競技経験:柔道


大金剛 Takeshi Ogane
出身:日立市茨城県
プロデビュー:'11年
階級:バンタム級フェザー級 ← ライト級
所属:R-BLOOD
MMAファイターになる以前の競技経験:柔道


その他の試合では現バンタム級王者手塚基伸がシッカリと秒殺KO勝利!
試合後のマイクで11月の斉藤洋とのチャンピオンシップに向けて機運を高めました。
ライト級王座決定トーナメントは、宇良健吾阪本洋平が決勝戦に進出。
両者も11月に4本目のベルトを懸けて対戦します。
他には川中孝浩のノースサウスチョークや咲田ケイジの初撃からのギロチンチョークによる一本勝ちも良かったですね~。


【ζ、まとめ】…観戦を終えて

8時間以上という長い大会でしたが、色々な発見があり疲れより楽しさの方が残りました。
ケージとリングの併設は思っていた以上に観やすかったです。
同じ会場を使う事で開催上のメリットが大きいなら、また観たいと思いました。
何よりムエタイ単独大会はあまり観に行かないので、こういった交流の機会を逃さず行けたのは良かったです。
あとGRACHANは「デデッデ~♪」というBGMを試合中に流していて、ムエタイの「チャララ~♪」と交互に鳴るのも面白かったです。
なんと本大会の翌日には海外でもBELLATOR(MMAGLORY(キックボクシング)によるケージ&リング併設の交流大会『Dynamite 1』(9月19日(現地)、サンホセ)が開催!
偶然ながらも『GRACHAN19 × BOM 9.5』は世界初のケージ&リング共同大会となったのでした!(笑)
これからの両団体の発展にも期待していきたいです!非常に満腹な大会でした~!