クロネコMMA図書館🐾

ミックスドマーシャルアーツ(MMA)という格闘スポーツについて、コラムや試合レビューを書いています。

【2023.8.26 UFCシンガポール】木下憂朔と対戦!ビリー・ゴフについて紹介~🔥

『UFC on ESPN 52 -Holloway vs. Korean Zombie-』

日時  2023年8月26日(土)

開催国 シンガポール

会場  シンガポール・インドア・スタジアム

 

UFCウェルター級 5分×3ラウンド戦】

木下憂朔/キノシタ・ユウサク  vs. ビリー・ゴフ

 

『DW Contender Series』でUFC契約を勝ち獲った、日本MMAの新鋭ストライカーの木下憂朔!

そんな木下が今週末に挑むUFC2戦目の相手は今回がUFC初参戦、木下と同じく『DWCS』でUFC契約を勝ち獲ったビリー・ゴフです。

 

空手をルーツとする木下に対して、レスリングをルーツに持つゴフ。

遠距離を得意とする木下に対して、近接戦に強さを持ったゴフ。

MMA選手としてハッキリと違う分野の強みを持った2人の激突となります!

 

同日のシンガポール大会で試合に臨む中村倫也vs.ファーニー・ガルシアに続き、今回は木下と対戦する中西部MMAの新たなパワーファイター、ビリー・ゴフを紹介していきたいと思います!🥊

 

 

#1 選手のプロフィール

ビリー・ゴフ

Billy Goff

出身 アメリカ合衆国

年齢 25歳

所属 チーム・デクスター・ヴァーリトゥード(コネチカット州 グロトン)

MMA戦績 8勝2敗(6KO/0SUB)

UFC戦績  0勝0敗

経歴   👑『CES』ミドル級王座(防衛0)

     👑『CES』ウェルター級王座(防衛0)

     👑『Cage Titans』ウェルター級王座(防衛0)

 

#2 経歴とMMAスタイル
 
 
 
 
 
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ビリー・レイ・ゴフはアメリカ合衆国の中西部、ミシシッピ州ガルフポートの出身です。

ゴフのルーツは8歳から始めたレスリングで、学生時代はコネチカット州グロトンの「フィッチ・ハイスクール」にてフォークスタイルの学生レスリング選手として研鑽を積みました。

高校を卒業した後、幾つかの州からは大学レスリングの誘いもあったそうですが、ゴフはコネチカット州グロトンでMMA選手となる道を選びました。

 

ゴフはレスリングで培われた強靭な体躯とパワー&タフネスを武器に、四つ組みやシングルレッグ等の組み技にムエタイスタイルの打撃を混ぜて闘います。

ゴフは高校レスリングで培われたレッグダイブ(シングル&ダブルレッグ)の使い手であり、特にシングルレッグスイープ*1を得意としています。

MMAでも特にこの技が活きており、多くの試合で1~2回シングルレッグスイープでTDを獲っています。

ゴフはMMAにおいては相手が蹴りを放ってきた際に、チェック・ア・キック*2からシングルレッグスイープへと連携します。足首を獲って膝下を高く抱え上げてバランスを崩すタイプで、レスリングとムエタイの良い連携を感じますね~✨

『CES』ミドル級王座戦ジャスティン・サムター戦ではサムターの放った左ミドルキックを、『DWCS』シモン・スモトリツキー戦でもスモトリツキーのボディへの左膝蹴りをチェックして、乱打戦から鮮やかにシングルレッグスイープTDを成功させています。

激しい乱打戦からでも瞬時に蹴りを掴んでTDに繋げられるのは、ゴフのレスリングをMMAに活かした魅力的なポイントです!

 

ゴフはクリンチから間隙を縫ってパンチや肘を撃ち込むムエタイの近距離打撃も得意とします。

ショートレンジのフック&アッパーを強打しながら、組み際の肘打ちも混ぜるアグレッシブな連打でダメージを与えます。

サムター戦ではダブルレッグで組み付いてケージに詰めてから、クリンチに切り替えて右肘打ちでテンプルを撃ち抜き勝機を掴みました。

『CES』ウェルター王座戦ギャリー・バレット戦では、TDからパウンドと肘打ちの絨毯爆撃を浴びせ、肘でバレットをカットさせて流血ギブアップ勝ちを挙げています。

上半身の屈強なパワーと、触れればポジションを感知できるレスリングの空間掌握力によって、ゴフは近距離でも躊躇なく強打を撃ち込めるストライカーの才能も秘めています。

 

『Cage Titans 50』👑ウェルター級チャンピオンシップ 5分×3ラウンド

ビリー・ゴフ vs. マーティー・ネイヴィス 試合動画

 

ゴフは優れたTDとハードストライキングの持ち主である一方、直近の3試合で全て先制ダウンを獲られたり、一本負け寸前に追い込まれたりするピンチに陥っています。

すべて大ピンチに陥りながら、すべてを跳ね返して大逆転のKO勝ちを収めているという、ハラハラするも非常にタフな闘いで連勝してUFCの契約まで辿り着きました。

素晴らしいタフネスと勝利を引き寄せる才能を持ったゴフですが、UFCで勝ち上がる為には、これから克服しなければならない課題があると感じますね~💦

 

ゴフは広い制空権を獲られた場合、左リードローキックや左関節蹴り、右ローキック等の下段蹴りを散らして、左右ロングフックで挟撃を仕掛ける闘い方をしています。

相手の打撃に対してはレベルチェンジ(ダッキング)を多用し、TDの脅威をチラつかせ相手が下へ注意を向けたところで、ハードパンチを撃ち込んで得意の近接戦に持ち込みKOやTDを成功させています。

しかし、直近の2試合においては、序盤に打撃を被弾してダウンを獲られています。

バレット戦では左ジャブを撃とうとした踏み込みにカウンターの右クロスを合わされ、スモトリツキー戦では左リードローキックを放とうと頭を右へ倒した瞬間を、左ヘッドキックで狙い撃ちされてしまいました。どちらも遠い間合いから攻撃しようとしたタイミングを読まれてしまっての被弾でしたね~💦

 

MMAにおいて、打撃戦はフットワーク(運足)の精度が要であると思います。

距離ではフットワークの精度の差が特に勝敗に影響しますし、UFCで上位を目指す為にも、ここの精度を更に上げていって欲しいと感じます!

スモトリツキー戦では、2ラウンドに右フックからスイッチして左フックを撃ち込んだり、右ローキックを「空撃ち」で左構えにスイッチして間合いを詰めて左フックを狙う等、試行錯誤が観られたのがナイスでしたね~。

豪快なKO勝ちで見事にUFC契約を勝ち獲ったゴフ。打撃戦の力を伸ばすことができるかは、ゴフのMMAスタイルの向上に重要なポイントになる気がしています!

 

ゴフのもう一つの課題は、ボトムポジションになった際のガードワーク&エスケープが十分では無い所ですね~。

レスリング出身としてトップコントロールの能力に秀でるゴフですが、やはりボトムポジションの能力は別もので、すぐにタートルポジションから立とうとしてしまう癖もやはりまだ残ってしまっています。

サムター戦ではスープレックスで投げられてしまった際に、すぐに立とうとしてタートルポジションになったところを狙われてバックマウントを獲られ、あわや裸絞めで一本負け寸前まで追い込まれてしまいました。

スモトリツキー戦ではダウンを獲られた後にパウンドを狙われましたが、ゴフはボトムからニーシールド&ニーバー(膝十字)を仕掛けてから立ち、グリップを切って正対に繋げていました。

試合ごとに確かな進化を続けているゴフだけに、この課題についても落とし穴にならないよう克服してくれることに期待しています👍

 

#3 木下憂朔戦への展望
 
 
 
 
 
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木下憂朔は正道会館空手をルーツに持ち、空手のフットワークを駆使したカットオフ・ザ・ケージ*3により、広い制空権から相手を撃墜させる新鋭ストライカーです。

木下は遠い間合いから左ストレートを放つと、構えを瞬時にシフティング*4させて右ストレートの追撃を叩き込むというコンビネーションを得意としています。

『DWCS』のジョゼ・エンヒキ・ソウザ戦では、このコンビネーションで長身のソウザを相手に制空権を掌握し、最後は左クロスのカウンターでKO勝ちしてUFC契約を勝ち獲りました。

一方で、UFCアダム・フュギット戦では、蹴りをチェックされてシングルレッグスイープでTDを獲られ、レスリング勝負で体力を一気に削られるとガス欠してしまい、ダウンを獲られてパウンドでTKO負けしています。

木下は遠距離での打撃戦に素晴らしい才能を持っているだけに、タフな相手との削り合いでも勝利を引き寄せられるカーディオ強化に期待したいですね~!

 

ゴフにとって、木下の遠い間合いから放たれる左ストレートや左廻し蹴りは脅威ですね~。

木下はレベルチェンジにカウンターを合わせるのも得意で、遠い間合いを維持して闘えばゴフにとってダウンを獲られる危険性は非常に高くなると感じます。

一方で、ゴフの得意な蹴りをチェックしてシングルレッグスイープを獲るTDは、フュギットも成功している通り木下には有効な一手であると感じます。

一度TDを獲れればレスリング勝負で優位に立てる可能性は高く、また近接戦になればゴフのハードパンチや肘打ち等の強打が活きてくると感じます。

 

木下にとってはTDを如何に取られずに、得意な広い制空権を守ってアグレッシブに打撃を撃てるかが大事になってくると思います。

ゴフは遠い間合いでは打撃の予備動作がまだ大きい為、精密な運足のできる木下が打撃の撃ち合いではアドバンテージを獲れる可能性は高いでしょう。

但し、距離をとろうと自分から下がってしまうのは、タフさとパワーのあるゴフに圧力をかけられ体力を削られてしまうと思います。体力勝負になれば木下は不利になってしまうと感じますね~。

序盤から圧力をかけて制空権を取り、得意の左ミドルキックや左ストレートの長打でゴフを真っ直ぐに下がらせられることができれば、シフティングからの連撃やカウンターで試合を掌握できる可能性は高くなっていくでしょう!

 

ゴフは近接戦とタフネスにアドバンテージがあり、木下は遠距離戦とKOパワーにアドバンテージがあります。

ゴフが近づいて強打で削り込むか、木下が距離を支配して一撃を叩き込むか…対照的なスタイルを持つ2人の試合は、どちらの得意な距離と戦場で闘えるかが勝敗に直結するスリリングなカードであると感じます!

 

UFCウェルター級という高い山嶺においては、一合目といえるこの一戦。

2人とも、リージョンでは勢いで勝てた部分を修正し、より自分の強みを活かせるスタイルへと精度を高めて行けるかが、次のステップへと移行できるかを大きく左右すると思います。

この一戦では、お互いのアドバンテージを対照的な相手に如何に示せるのか…その鍔迫り合いからのタフな試合に挑む姿をぜひ観せて貰いたいと思っています!!🔥

 

#4 おわりに

UFCの各階級には、それぞれの歴史から生まれた個性豊かな魅力と嶮しさがあります。

ゴフと木下が所属するUFCウェルター級は、兼ねてからレスリング&フィジカル強者の集った激戦区であり…かつては「神の階級」とも呼ばれトップクラスの難易度を誇った階級でした。

現在ではそう呼ばれることも少なくなりましたが、UFCウェルター級の山嶺の厳しさは変わっていない…むしろ、その嶮しさは「神の階級」と呼ばれた時代よりも上がっているとも感じます。

 

ゴフは格上のレスラー達が犇めくこの階級で、同タイプとの凌ぎ合いを闘い抜かなければならないでしょう。

木下もレスリングの怪物たちを斬り伏せる、才能溢れたストライカーたちに並んでいかなければなりません。

どちらもMMAにおける最高難度の嶮しい道であることは間違いないでしょう。

 

だからこそ、厳しい試合のなかで自身のルーツをMMAへと昇華させ、よりオリジナルで強靭なスタイルへと「証明」していくことが、UFCでは最も大切になっていくと感じます。

そんな昇華と証明の瞬間を、これからも是非観ていきたいな~と感じています!🔥

 

 

theanswer.hatenablog.com

 

 

 

*1:「シングルレッグスイープ(Single Leg Sweep)」…相手の「片脚を抱え上げて(Single Leg)」浮かし、バランスをとっている相手の「軸足を刈って(Sweep)」TDすること。片脚の抱え方、軸足の刈り方にいくつかのバリエーションがあります。」

*2:「チェック・ア・キック(Check a Kick / Checking Kick)」…相手の放った蹴りを腕や手で受けたり、掴んだりして防御すること。MMAにおけるCheckには「相手の行動を止める(阻む)」という意味があり、「チェックフック(Check Hook)」も相手の攻撃(前進)を止めるフックという意味です。

*3:「カットオフ・ザ・ケージ(Cut Off the Cage)」…フットワークや攻撃&フェイントによって圧力をかけ、相手がケージで動ける面積を減らす=ケージを切り取る(Cut Off)という空間制圧技術のこと。元々はボクシング用語の「カットオフ・ザ・リング(Cut Off the Ring)」に由来する。

*4:「シフティング(Shifting)」…パンチの慣性を活かし奥足を一歩踏み入れて、パンチと同時に構えをもう片方へ変化(Shift)させる技術。攻撃と同時にポジションを瞬時に入れ替えて、相手の死角と先手を獲ることができる。四隅の無いケージにおいて、相手を追跡する技術として非常に効果的なMMAで必須の技術のひとつ。