私は10年前に、このブログでこのような記事を書きました。
MMAはスポーツとして成長できるのか?
10年後はどうなっているのだろう?
そのような気持ちで、ワクワクしながら書いたのを覚えています。
今年でちょうど10年、MMAはスポーツとして国際的な普及をみせています。
本当はお祝いの記事を書きたいものですけれども、スポーツとして成長したことで、潜在していた不安も目に見える形で浮き上がってきてしまったと感じます。
というわけで、未だ暫定的ではありますが、あれから10年後に感じ、考えたことを書いていきます~ノシ✨
#1 「MMAとスポーツウォッシング」…危険な相性の良さを振り返る
「スポーツウォッシング(Sportswashing、スポーツによる洗濯)」という用語は、2010年代後半になって使われるようになった新語です。
「スポーツの熱狂によって、組織に遍在する要改善課題から目を離させる」という意味があり、事実として「スポーツによる洗濯」は国家から組織に至るまで、至る所に存在する課題です。
私はMMAが好きですけれども、MMAは「スポーツウォッシング」が幾度も行われてきた、残念ながら非常に「洗濯」と相性の良いスポーツになってしまっていると感じています。
アメリカ合衆国の最大手『UFC』では、今年にクラスアクション(集団訴訟)が認定される大きな動きがありました。
契約更新に際する圧力の疑惑、ファイトマネーの格差、ランキングを飛び級した人気選手の優遇など、様々な諸問題が存在しています。
しかし、それらは月に3~4回開催される大会の熱狂により、ファンの人たちの頭からすっかり「洗濯」されてしまうようです。
ジョン・ジョーンズやコナー・マグレガーの傷害事件は、彼らが「稼ぎ頭」であることから大会の熱狂とともに「洗濯」されてしまったように感じます。
昨今のショーン・オマリーvs.マルロン・ヴェラに代表される、序列より「稼ぎ頭」を優先したチャンピオンシップ等に対しても、時間をかけてファンが「洗濯」されきってしまったように感じていますし、とても残念に思っています。
日本の『RIZIN FF』も同様に、スポンサーとの訴訟、TV局の契約問題などの外部との諸問題に始まり、ギミーファイトの多発、直前のマッチメーク変更、そしてドーピング管理の不透明さ等内部の諸問題に至るまで課題は多くみられます。
しかし、ファンの人たちは大会が開催されるたびに諸問題が「洗濯」されてしまうことに慣れてしまっているように感じます。
当然、これらの問題は上記のMMAプロモーション以外にも同様にいえることです。
これら過去の結果が伝えていることは、
『MMAは「スポーツウォッシング」との相性が良く、「洗濯」が起こりやすい』
というデータであり、それを利用したい人たちが今後参入してくるのでは?という懸念です。
MMAプロモーションは、大会を開催すれば諸問題を「洗濯」できる。
ファンも諸問題から目を反らさんと「洗濯」されることに甘んじてしまう。
…そのような「箱庭」における共存関係が出来てしまいがちであることは、過去を振り返ってみても否定できない事実ではないかと思うのですね~💦
#2 アラブ諸国の巨大資本の投入…「MMA✖スポーツウォッシング」への懸念
MMAは「スポーツウォッシング」に相性が良い…その懸念をさらに膨らませる事態は、おもに近年の中東や中央アジア、カフカス付近に散見されると感じます。
カザフスタンやキルギス、アゼルバイジャン、ロシアのダゲスタン共和国、そしてチェチェン共和国といった国家はMMAへ直接ないし間接的に積極的な支援を行ってくれています。
それは、一面ではMMAというスポーツの国際的な人気の高まりを感じさせてくれます。
しかし、もう一面には、諸国が「スポーツウォッシング」の力を持つ為、MMAという相性の良いピースを欲しているようにも感じられてしまいます。
2021年のパンデミックの最中、『UFC』はUAEアブダビにて「ファイトアイランド」…現在のエティハド・アリーナの杮落としを行いました。
件のアリーナでの開催は既定路線であったのでしょうけれども、ここにも「スポーツウォッシング」の影を感じずにはいられません。(ちょうど「スポーツウォッシング」が話題になっていた時期というのもありますね…)
アラブ諸国では、インドやパキスタン等の近隣アジア諸国からの移民労働者に労働圧力をかけているとされる「カファラ制度」の存在が報道されています。
「ファイトアイランド」建設にも、そのような背景が少なからず影響している可能性は高いですし、手放しには開催を喜べなかったというのが本音です。
カタールは来年にシンガポールの『ONE CHAMPIONSHIP』を自国開催することを発表しており、日本大会に続くナンバーシリーズである本大会もまた、アラブ諸国におけるMMAを介した「スポーツウォッシング」の盛り上がりを表すものかもしれませんね~…。
そして、積極的な投資を行うサウジアラビア機関「PIF」からも、今年にMMAへの多額の投資が行われたというニュースが報道されました。
ここにきて、アラブ近隣諸国における「MMAによるスポーツウォッシング」への強い関心と、その介入が始まったことを強く感じざるを得ません。
アメリカ合衆国のメジャーMMA『PFL』は、来年から新体制となります。
そんな『PFL』にPIFは投資を行い、既に今年からサウジアラビア選手がちらほらと出場しています。
『UFC』でも、来年にはサウジアラビア大会が開催決定しています。
来年は、MMAにおけるサウジアラビアの色合いが強まっていくことを感じていますね…。
サウジアラビアにUAEアブダビ、カタールといったアラブ諸国は、決して自国のMMA選手がメジャーで台頭してMMA発展に乗り出したというわけではありません。
それにも拘わらず、国外のメジャーMMAプロモーション『UFC』『PFL』等に積極的な投資を行う…そこに不安を感じてしまいますね~💦
#3 おわりに
MMAの10年間の成長を、手放しにもっと喜びたくはあるのですけれども、昨今のドタバタを見ていると、10年前にも感じていた不安のほうが大きくなってしまっていますね…
MMAの課題は今回の「スポーツウォッシング」だけではありません。
各国それぞれに課題があり、日本MMA国内においても、改善すべき課題が存在すると感じています。
MMAがスポーツとして認められた先に、新たに課題が生まれた、ということなのでしょうかね~…。
MMAの様々な問題の解決は、結局のところMMA選手たち自身の行動と活躍によってしか成されません。
残念ながら、MMAを観るファンに出来うることは少ないです。
だからこそ、MMAを取り巻く諸問題について、徒に話すようなことはしてきませんでした。
但し、ファン側が「課題自体を認知できていない」こと、前提知識の共有がなされないことは、今回の件以外においてもMMAの未来に影を落としてしまうであろうと感じています。
MMAがスポーツとして成長してきている今、ファンも払ったお金の行き先や、楽しく観ているMMAが潜在的に持っている脆さについて、共に知っていく必要も出てくるのかな…と、自戒を込めて強く思った本年でしたね~💦
MMAがさらに10年歩んでいく、その為に2024年からの歩みも大事になっていくと感じています!