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ミックスドマーシャルアーツ(MMA)という格闘スポーツについて、コラムや試合レビューを書いています。

「UFC Fight Night 244」 ブランドン・ロイヴァル vs. 平良達郎 感想!

 

 

UFC Fight Night 244」*1において、メインイベントで行われたブランドン・ロイヴァル vs. 平良達郎(タイラ・タツロウ)の感想です✨

UFCフライ級1位のロイヴァルが、5位の平良を迎え撃つ形となったトップコンテンダー戦。UFCフライ級戦線を左右し得る一戦は、同格の長身フレームを持った両者が攻守を切り替え合う熱戦となりました!

 

というわけで、感想です~ノシ

 

#1 同格フレームの相手を圧倒したロイヴァルの右リードパンチ

ブランドン・ロイヴァル戦は、平良達郎にとって「フレーム差(リーチ差)に依らない攻防がどれだけ出来るのか」という試金石の試合でした。

後述の通りグラップリングにおいては非常に優れた強さを魅せてくれた平良でしたけれども、一方でスタンディングの打撃戦、そしてTD(テイクダウン)に関しては、予想されていた弱点が露呈してしまった結果となりましたね~…。

打撃戦においては、右ストレートが今までの相手のように容易に届かないことで、左リードの攻防が主体となった訳ですけれども、ここでロイヴァルが明確に平良と差を付けて効果的な打撃をいくつも撃ち込めていました。

 

ロイヴァルは、ざっくりと言えば①右ジャブ②右リードアッパーの二つで平良に打撃戦で完勝したといえるでしょう。

①右ジャブは平良の左リードハンドにコツコツと当てつつ、内にすり抜けるように撃ち込み、体幹移動によって左クロスにも連携できていました。平良は左ジャブへの構えが一定で、左リードの攻防で先手を獲られた為にフットワークも受けに回ってしまい、何度も強打を撃ち込まれてしまいました。

②右リードアッパーは逆に平良が至近距離に四つ組みやレッグダイブでTDを狙ってきた際にカウンターを撃ち込んだり、壁際での四つ組みやレッグダイブから脱出する際に効果的に使用していました。

 

平良もなんとか意を決して大きく強振右フックを振り抜いた場面もありましたが、同格フレームのロイヴァルにはダメージを通すことはほぼ出来ていなかったと感じます。構えが一つしか無く、構えから出されるパンチのバリエーションも少ないまま今まで勝ててきてしまったことは響いたな~という印象ですね💦

一方のロイヴァルも平良のTDを警戒して得意の膝蹴りやローキック等をあまり撃てなかった印象ですが、要所で左ミドルキックを撃てていたのも制空権を作る一助になれていたと思います!

 

#2 同格フレームの相手をも制圧した平良のグラップリング能力

平良達郎についてプロスペクト紹介の際に書いた通り、平良の魅力と言えば「二重ロック」の寝技の強固な捕縛力です。

ロイヴァルのグラップリングは捕縛より極めを優先するスタイルで、それ故に押さえ込み勝負に脆い印象があったのですけれども、平良の「二重ロック」によるチェーンレスリングが見事に効果的な強さを生み出してたと感じました。

特に良かったのは、バックテイクで三角ロックと共に「二重ロック」でロイヴァルの立ち上がりを封じたネルソンホールドの豊富さで、パワーハーフで押さえ込んでマットリターンを奪ったシーン等は特筆すべきポイントであったと思います。

「バックテイク(三角ロック)→ネルソンor裸絞め→スプロール&スピン→バックテイク(三角ロック)…」と三つのノード(戦術の枝)を繋ぎ合わせたチェーンレスリンで、ロイヴァルの脱出する隙をほぼ与えていなかったことも平良の非凡さを感じさせてくれるポイントでした✨

 

一方のロイヴァルは、そのような平良の寝技のテリトリーに入ることを二度も許してしまった事が大きなミスでしたね~💦

ロイヴァルがTDの防御と打撃戦に徹していれば、今回ほどのピンチを招くことは無かったと感じます。

この「粗さ」もロイヴァルの魅力と言ってしまえばそうですが、その「粗さ」故に今までチャンピオンシップ等の大一番で敗けてしまってきている事も事実です。

ロイヴァルが次戦でチャンピオンシップに挑むのであれば、よりミスの無い貫徹した試合を魅せて欲しいと感じますね~。

 

#3 感想のまとめ

勝敗を分けた大きなポイントとしては4つほどあります。

①TD(テイクダウン)の攻防

②ポジショニングの攻防

③打撃戦のリードハンドの攻防

④ノード(戦術の枝)の攻防

 

①TD(テイクダウン)の攻防においては、平良が自力でTDを獲って寝技に持ち込めた場面は4Rのシングルレッグ&バックテイクのみ、というのが大きく痛手となりました。

ロイヴァルが2Rと3Rに寝技でピンチを迎えたのは、いずれもロイヴァル自身が2Rに右膝蹴りを躊躇して固まってしまったこと、3Rに無理な体制から腕十字に入ってしまったことに起因しています。

言ってしまえばロイヴァルという選手の持つ粗さゆえの「自爆」によってチャンスを掴んだといえるので、平良のTDへの評価はあまり高くは出来ないといえるでしょう。

 

②ポジショニングの攻防においては、ロイヴァルが結果的に平良の押さえ込みから一度も自力で脱出できなかった事で、平良の捕縛力の高さがほぼ「証明」された試合でしたね~。

一方で、平良の寝技も決して万点とは言い難い…その理由は三角ロックという「安全圏」に固執してしまっているという点にあります。

平良の三角ロックはブルームスティックとの「二重ロック」で盤石の捕縛力を誇りますが、逆に言えばそこからは裸絞めくらいしか攻め手がないともいえます。腕十字や三角絞めに変化するにしても、同格フレームの相手に仕留めきるのは難易度が高いと言えます。

前述した平良のネルソンが特に良かったというのは、ネルソンから次のポジショニングへ移れる可能性のノードが広がっているからです。

例えばネルソンからロイヴァルを返してハーフポジションを獲ることが出来れば、平良のMMAグラップリングの幅は格段に広がるといって良いでしょう。

勿論エスケープされるリスクは増えるわけですけれども、三角ロックという「安全圏」という殻に閉じ籠ってしまうだけでは平良のMMA選手としての幅は広がりませんし、その殻を破ってこそ平良がMMA選手として更なる進化をしてくれる可能性を感じました!

 

③打撃のリードハンドの攻防においては、前述の通りロイヴァルが圧倒して平良をほぼ完封したといえる内容でした。

平良は右ジャブを直撃被弾してしまう場面が非常に多かったのですけれども、ほぼ裸拳に近いMMAグローブにおけるジャブの「散らし」に対応できていないように感じられました。

構えがしっかり安定しているのは良いのですけれども、MMAにおけるリードハンドの打撃というのは、立ち技競技のそれより戦術の幅がかなり広いため、ここで差を完全に付けられたことは、今後の平良にとっても弱点となり得る可能性は高いですし、改善に向けて頑張って欲しいところです。

逆に言えば、フレームの強さやパンチ力の差はほぼ無かったので、平良が技術の差さえ埋められればロイヴァルと打撃戦で肉薄できる可能性も大いにあると感じます!

 

④ノード(戦術の枝)の攻防においては、平良が劣勢になった時に打撃戦で第2、第3の矢を持てていなかった事は大きなミスであったといえるでしょう。

これは平良本人というよりは、平良のチームの戦術や事前の想定の不足ともいえます。日本MMAグラップリング主体の戦術にも、MMAとしてまだまだ発展の余地は大きいという事の証左でしょう。

正直、今回の試合前に「ボクシングのトレーナーに打撃を教わった」という平良のインタビューにはかなり不安を感じてしまいましたね~💦

前述の通り、ボクシングの打撃はMMAの打撃とは大きく違いますし、日本でボクシングのトレーナーからMMAの最新式の打撃を師事できる実績は心許ないといえます。

ボクシングで「NG」である打撃がMMAには非常に効果的な布石であったりしますし、MMAグローブの薄さならではの打撃の「縫い方」、グラップリングと連携する体幹の崩しやレベルチェンジへの連携等、懸念すべき不足要素は限りなくあります。

勿論、これはボクシングのトレーナーの方々が悪いわけではありません。競技が違うのですから、もともと無理なお願いをしていると言って良いことなのだと感じます。

結局のところ、「MMAの打撃」を「MMAのチームとトレーナー自身」が「MMAの練習環境」で試行錯誤し鍛錬できる環境作りこそが必要であるということでしょう。

日本MMAは十数年経ってもなかなか集合知が作れていないのが大きなネックであり、チームやトレーナーの皆さんも苦しみの中にいるとは思いますが…

平良という大きな才能が飛躍できるよう、この敗戦を正面から大きな提示として受け止める必要があると感じます!

 

#4 おわりに

どの国のMMAとっても、UFCチャンピオンが生まれることは大きな飛躍であり…同時に始まりの一歩であると言えます。

日本MMAUFCチャンピオンが生まれることは、日本という国でMMAの歴史が真の意味で始まる切っ掛けの一つになり得る力があります。

一方で、ただ一人の「突然変異」がUFCチャンピオンになったからといって、その国のMMAの強さが証明された事にもなりません。

UFCフライ級現王者アレシャンドリ・パントージャの王座に朝倉海(アサクラ・カイ)が挑戦する事がすでに発表されていますが、平良にしても朝倉にしても、「ただ一人」に背負わせる事は止めにしないといけません。

二人がUFCチャンピオンになれたとしても、それは日本MMAの始まりの一端です。

日本MMAそのものの証明には、まだまだ遠い道のりが続いていると感じます。

 

MMAは勝敗のつく競技であり、そこには「技術の鏡」が常に存在していると言えるでしょう。

ブランドン・ロイヴァルという「鏡」に平良が写った事で見えた課題をどう克服してくれるのか…そこに日本MMAの証明がかかっていると感じます。

そして、「鏡」に写ることに臆さず挑んだ平良達郎と、プロスペクトを正面から迎え撃ち堂々と勝利したブランドン・ロイヴァルに拍手を送りたいです✨👏✨

 

 

 

Shimmy Shimmy Ya

Shimmy Shimmy Ya

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ブランドン・ロイヴァルの入場曲、Ol' Dirty Bastard(オールド・ダーティー・バスタード)「Shimmy Shimmy Ya(シミー・シミー・ヤ)」

ニューヨークのヒップホップチーム、Wu-Tang Clan(ウー=タン・クラン)から派生したODBが歌うこの曲。

「お行儀のよい」ヒップホップ業界への反骨心をむき出しにして、破天荒で文法破壊のパンチライン「Shimmy(お尻や肩をめっちゃくねくねさせる踊り)」で人気を博しているこの曲を、ロイヴァルは入場曲として好んで使用しています。

ロイヴァルはニックネームの「Raw Dawg(避妊なし犬野郎)」といい、なかなかアウトサイダーな破天荒さで自身を鼓舞している感じがみられ、その前向きさが思い切りの良いアグレッシブな攻めと上手く嚙み合っている感じがしますね~(そのぶん粗っぽさの弱点にも繋がっちゃっている気もしますが…🐶💦)

ワルっぽい雰囲気を出しつつも、真面目な感じも隠しきれていない、そんなロイヴァルがUFCチャンピオンシップに再び挑戦する機会が与えられた暁には、是非ともその爆発力をフルに発揮して欲しいと感じています!ロイヴァルおめでとーーー!!👍🔥

 

*1:最近はESPN+で放送する大会が「UFC Fight Night」シリーズと呼ばれています。UFC Apex開催の大会を「UFC Vegas」シリーズと呼ぶこともあり、本大会も「UFC Vegas 98」という別名があったりします。ややこしい!