今回は『UFC』でリオン・エドワーズやカルロス・コンディットが昨年に見せたお気に入りのMMAテクニックについて紹介します~ノシ
エドワーズは今月『UFC 278』にてウスマンの王座へ挑戦しますが、それに向けて試合を観返していくうちに、今回の技についてめっちゃ書きたくなりました!!
というわけで「ウェッジスロー」という技について紹介していきます✨
- #1 MMAお気に入りテクニック…「ウェッジスロー」
- #2 松濤館空手の「ウェッジスロー」…リョート・マチダが証明した妙技
- #3 ムエタイの「ウェッジスロー」…現代MMAに適応した「蹴り掃い」技
- #4 柔術&柔道の「ウェッジスロー」 進化の鍵を握る組技師による「崩し」
- #5 おわりに
#1 MMAお気に入りテクニック…「ウェッジスロー」
「ウェッジスロー(Wedge Throw)」とは、2007年にリョート・マチダ vs. 中村和裕戦において脚光を浴びた「崩し技」です。
ざっくりと「投げ技」のカテゴリーに入りますが、四つ組みしたりレッグダイブをかけたりしない「足払い」技の一つなので、「崩し技」と呼ばれることが多いです。
「ウェッジ(Wedge)」とは「楔(くさび)」のことで、直訳すると「楔投げ」。
その名の通り相手の身体を中心に手と足で挟み込んで足払いをかける技のことを指します。
ウェッジスローのおおまかなポイントは二つあります。
①相手との構えは「鏡合わせ」になり、軸足*1をしっかりと踏み込む。
②片側の腕と脚を「振り子」のように交差しながら、脚は裏側から&腕は表側から挟み撃ちして同時に押し込む
以上の2行程により、相手を前後から挟んで回転に巻き込むことで「崩し」が完成します。
以上をふまえて、まずは件のリオン・エドワーズのウェッジスローをどうぞ!⇩
※「設定」の「再生速度」を「0.25」にすると、技をスローでじっくり観られますよ~👍🏻
◆参考:『UFC 263』リオン・エドワーズ vs. ネイト・ディアズ
エドワーズの場合は、
①右足を軸にして構えをスイッチして、構えを「鏡合わせ」にする
②左脚でひざの裏を蹴り払い、スイッチで突き出た左腕で頭部を押し込む
という動作を連動させて、奇麗に「崩す」ことに成功しています!
続いて、同じく昨年のカルロス・コンディットのウェッジスローも紹介します。
◆参考:『UFC on ABC 1』 カルロス・コンディット vs. マット・ブラウン
コンディットの場合は、
①最初から「鏡合わせ」の状態から、右リードフック(ないしは左ミドルキック等)のフェイントをかけながら左軸足を踏み込む
②レベルチェンジしながら慣性に乗って勢いよく懐に潜り込み、右脚でひざの裏を蹴り払いながら、右腕で胸のあたりを押し込む
というテクニカルな動きで思い切りTDに成功しましています!
ウェッジスローは脚のうしろに「つっかえ棒」を置き、前から押して回転するように後ろへ転がす技です。
一瞬で決まる素早さと、決まった時の鮮やかな機能美がとても好きですね~
次は、ウェッジスローについてもう少し深めに紹介していきますb
#2 松濤館空手の「ウェッジスロー」…リョート・マチダが証明した妙技
2007年の『UFC 76』で行われたリョート・マチダ vs. 中村和裕において、リョートは素早い構えから「崩し技」で何度も中村をTDし、UFCにおける空手スタイルの先駆けとして強いインパクトを与えました。
リョートのこの「崩し技」は、松濤館空手において「逆鎚(さかつち)」とも呼ばれる崩し技の一種です。
①左の追い突きから素早く構えをスイッチさせ、前に出た左脚を太ももの後ろに深く潜り込ませる
②左脚で「つっかえ」させつつ、左腕で勢いよく胸を押し込む
リョートのウェッジスローは体位の変化によって生まれる慣性エネルギーで倒すという感じで、これが松濤館空手(延いては空手全体)における特徴であると感じます!
⇩こちらは、リョートのUFC以前に空手の試合で使った崩し技です!
相手の踏み込みに合わせて、カウンターでバッチリと決まったウェッジスロー!
中村戦とほぼ類似した動きで崩しているのが分かりますね~。
リョートのUFCにおける快進撃を支えたのは、鋭い突き技はもちろん、巧みな空手仕込みの足払い…「崩し技」の妙技があったからこそだと思います。
リョートは中村戦のみならずUFCの試合で数多くの「崩し」を魅せているので、ぜひ観てみて欲しいですね~✨
⇩こちらは空手の日本大会におけるウェッジスローです!
◆参考:吹上優海(赤 福岡 拳姿塾) vs. 永井カンナ(青 静岡 浜北松濤館)
①「鏡合わせ」の状態から、中段の左逆突きと共に一気に右脚を太ももの後ろに潜り込ませる
②右脚を切り返しながら旋回、勢いを載せた右脚と右腕で巻き込む
逆突きの際、思い切って左膝をマットにつけるくらい踏み込んでいるのが印象的ですね~!
空手ならではのスピード満載の攻防から見事な崩しが決まっています!
#3 ムエタイの「ウェッジスロー」…現代MMAに適応した「蹴り掃い」技
ウェッジスローは空手のみならず様々な武術で確認することができます。
リオン・エドワーズやカルロス・コンディットが使用した「崩し技」は、リョート・マチダの空手式と比較すると手順にやや違いが観られます。
⇩エドワーズのウェッジスローを振り返ってみます。
◆参考:『UFC 263』リオン・エドワーズ vs. ネイト・ディアズ(2パターン目)
エドワーズとディアズは、ともにサウスポーの構えです。
①「鏡合わせ」になるよう、右軸足を強く踏み込みながらスイッチをする
②奥の「軸足」の足首めがけて左ローキックで蹴り込み、同時に左腕で胴を払う
リョートのウェッジスローとおおまかな仕組みは同じですが、より「軸足」を蹴り掃うことを狙った崩し方だと感じます。
この「軸足」を蹴り崩すやり方は、ムエタイの崩し技に近いものを感じますね~。
◆参考:『K-1 World Max 2007 開幕戦』 ブアカーオ vs. ニキー・ホルツケン
⇧の動画では、ブアカーオがムエタイの「崩し技」の一つを魅せています。
①前蹴りのカカトを捕まえ、一旦後ろに下げた左脚を踏み込んでスイッチする
②前蹴りを引っ張り、不安定な軸足に右ローキックで蹴り込む&右腕で頭部を押し込む
相手の蹴りの瞬間を狙い、カウンターを決めた見事な切り返しですね~!
この技はムエタイで「เถร กวาด ลาน(テーン・クワーツ・ラーン、庭を掃く僧侶)」とも呼ばれる伝統的な技で、相手の蹴りの瞬間に無防備になった軸足を「掃く=スイープ(Sweep)」ように蹴り崩します。
◆参考:『Max Muay Thai 4 -WC2013 Japan-』 ブアカーオ vs. 佐藤嘉洋
こちらも同じくブアカーオのウェッジスローで、フェイントで布石を敷くパターン。
①スイッチして左ハイキックを打ち込み、蹴りの布石を敷き防御を意識させる
同じ予備動作で防御を誘発させつつ、左脚を更に踏み込み2連続でスイッチする
②防御のために上げた脚ごと不安定な軸足を蹴り掃い、右腕で頭部を押し込む
完璧な布石から鮮やかにサイドへ走り抜け、見事に崩していますね~!
◆参考:カルロス・コンディット vs. マット・ブラウン(視点別バージョン)
前述のコンディットのウェッジスローも⇧のブアカーオと仕掛け方がよく似ています。
①2段階のスイッチでフェイントを仕掛け、防御を意識させながら踏み込む
②防御で片脚を上げたところを、軸足を蹴り込みながら巻き込んで倒していく
似ているバージョンを比較すると、違いもはっきりと分かります。
ブアカーオは立ち技競技のムエタイのため、自分の姿勢は一切乱れないです。
対してMMAのコンディットは組技へ持ち込むために、「捨て身投げ」の要領で巻き込みながら一緒になだれ込んでTDしています。
コンディットはウェッジスローから押さえ込みきれなかったものの、「崩し」は成功してシングルレッグTDに繋げることに成功していますね~。
◆参考:『ONE Championship 73』アウン・ラ・ン・サン vs. 長谷川賢
アウン・ラのウェッジスローも、コンディットと似た「捨て身投げ」のパターンです。
①左ストレートを打ち込むフェイントから、右脚を踏んで一気に懐に潜り込む
②相手が右ローを放ち不安定な軸足めがけて蹴り込み、胴を押し込み巻き込んでいく
アウン・ラもバックライドへ持ち込めましたが、崩す側も体勢を整える一瞬の間があるためか、押さえ切ることは難しかったですね…;
どちらも「崩し技」としては見事な効果を出していますし、「捨て身」バージョンのウェッジスローも更に深化してくれることに期待しています!
#4 柔術&柔道の「ウェッジスロー」 進化の鍵を握る組技師による「崩し」
ウェッジスローは空手やムエタイなど、打撃ベースのMMA選手が多く使う技です。
打撃から繋ぎやすく、体幹を「崩す」ことに主軸を置いている技だからかな?と思います。
一方で、柔術&柔道ベースの選手がウェッジスローを使うシーンも観られます。
◆参考:『ZST 63』関鉄矢 vs. 鈴木琢仁
⇧の動画では、柔道&柔術をベースとする鈴木がウェッジスローを成功させています。
①オーソドックスからスイッチし、左脚を踏み込んで懐に潜り込む
②右脚のモモを相手の太ももにぶつけて掃い、右腕で腰を獲って巻き込んでいく
どちらかというと、空手タイプに近い崩し方をしていますね~。
特徴的なのは、相手の頭部や胴体を押さずに脚を掴みに行っているところです。
つまり、打撃ベースの「崩し」とは違い、「投げ」を狙ったのかな?と感じますね~。
◆参考:講道館柔道 「掬投(すくいなげ)」
柔道には「掬投(すくいなげ)」と呼ばれる、脚の道着を掴んで相手を投げる「崩し技」があります。
⇧の動画で前半に紹介される「掬投」は、鈴木が狙っている動きに近いと感じますね~。
①スイッチによる踏み込み
②脚を使った「蹴り掃い」
2つの工程が上手く決まった結果、ウェッジスローが成功したと感じます!
ここから更に②に頭部や胸を押し込む動作が加えられると、より空手やムエタイ選手の崩しに近くなるのかな~?と思います。
MMAでは衣服を掴む行為は禁止されているため、「掬投」をそのまま使うことは難しいですけれども、他の立ち技と混ざり合う事でウェッジスロー等にも変化させることができる…というのは非常にワクワクする可能性だと感じます🥰
前述したコンディットのウェッジスローも柔術&柔道の「谷落」の要素が感じられたりしますし、カテゴリーに収まらず混ざり合うMMAならではの技術交差なのかな~と思ったりしますね~
MMAにおけるウェッジスローの可能性を広げる次なる鍵は、柔道&柔術ベースによる進化にあるのかもしれません✨🔑✨
#5 おわりに
というわけで、MMAでのお気に入り技「ウェッジスロー」の紹介でした~!
ルーツが混ざり合い一瞬でスパッ!と決まる「崩し技」は、MMAの魅力が詰まった技で大好きですね~
今回いろいろと観ることで改めて奥深さを知ることができたので、嬉しかったですb
技が「名前を持つ」ということは、改めて重要なことだな~と感じます
まだまだMMAにおいても、名前が無いことによって観測されない、という現象は多々見られると思います
ロシア近辺における「スラヴィックボクシング」や、ブラジルにおける「ブラジリアンキックボクシング」も、確かに存在はすれど名を持たないために確定的な観測はされておらず…それは真の意味で「秘伝」といえるのかもしれないな~と思ったりします
「MMA」も、かつてはきっと同じような存在だったんだろうな~…と思ったりしますね~…
これから新たに「観測」されていくであろうMMAの発展が楽しみですし、観たり書いたりしていけたら良いな~と思います!✨😊🙏🏻✨
*1:蹴る時にふんばる脚のこと