一般的なMMAケージにおける「地面」には、鉄製のフレームの上に木の板が載せられ、更に緩衝用のマットが重ねて敷かれています。
試合用ケージの殆どはキャットウォーク(ケージ下の階段部分のことです)のおかげで大地から離れてはいるものの、基本的にはテイクダウンにおける衝撃をMMAケージの「地面」は完全に吸収しきれるわけでは無いと感じます。
そんなこんなでMMAにおいてはスラム(持ち上げて叩きつける)によるKO(ノックアウト)勝ちは意外と?多いです。
わたしは個人的にはスラムKOというのは偶発性の高いものだと思っていますし、その成功率は他の技よりも低いです。
しかし、だからこそ盤上を引っ繰り返す一撃必殺の逆転劇を数多く生み出してきたともいえます。
スラムKOは、ざっくりと打ち付け方で2種類(ないし3種類)に分けられます。
- 傾き(角度)をつけて落とすスラムKO スープレックス&リフトアップ・タイプ
- 正面から落とすスラムKO パワーボム・タイプ
- 体重を浴びせもたれ込むスラムKO ボディフォールド・タイプ
- 近年のスラムKO 複合的な進化
傾き(角度)をつけて落とすスラムKO スープレックス&リフトアップ・タイプ
1つめは、斜めに傾き(角度)をつけて落とし、側頭部を強く打ち付けるスラムKOです。
まず、このタイプのスラムKOでは代名詞的な
ジェシカ・アンドラージ vs. ローズ・ナマユナス Ⅱ を紹介してみます↓
この試合では当時の王者ナマユナスが1ラウンドを圧倒し、アンドラージが劣勢に立ったなかでの鮮やかな逆転KO勝ちでした。まさにスラムKOの象徴ともいえるワンシーンですね~。
このタイプは必然的に肩から落とす形になるので、ナマユナスのようなキムラロックや、アームバーなどの関節技を狙っていて受け身が取れない状態で起こる事が多いです。
所謂スープレックス(反り投げ)やダブル&シングルレッグでリフトアップ(抱え上げ)してから角度をつけて落とす投げ方が多いですね~。
MMAにおいて側頭部への打撃は完璧な合法なので、このタイプのKOはかなり狙って放たれる事が多いと感じます。
UFCでは他にも、初期UFCで鮮やかなリフトアップ・タイプの秒殺スラムKOを魅せた
フランク・シャムロック vs. イーゴル・ジノヴィエフ や、
UFC初代ダゲスタン勢として鮮烈に記憶に残るスープレックスKOである
ルスタム・ハビロフ vs. ヴィンス・ピシェル などがありますね~!
石渡伸太郎 vs. 伊藤一宏 において、伊藤のシザーチョーク(洗濯バサミ)に対して石渡が同じタイプのスラムKOを魅せているのが特に印象に残っています!
ともすればパイルドライバーのようにも見える豪快な決まり手でしたbb
正面から落とすスラムKO パワーボム・タイプ
2つめは、正面から落とし、後頭部を強く打ち付けるスラムKOです。
これは所謂「パワーボム」タイプと、「ボディフォールド(鯖折り)」タイプの二種類に大別されます。
前者「パワーボム」タイプでは何といっても有名なのが、日本のPRIDEでの
クイントン・"ランペイジ"・ジャクソン vs. ヒカルド・アローナ ですね!
ジャクソンはPRIDE時代において豪快な投げ技を多用しましたが、この試合では衝撃の決まり手となりました。
アローナは三角絞めで攻めている途中であり、即座に対応できなかった事もこの逆転KOを生んだ要因であると感じます。
同タイプでジャクソン vs. アローナと同じくらい有名なのが、
マット・ヒューズ vs. カルロス・ニュートン Ⅰ でのスラムKOです!
尤も、この試合では打ち付けた際に角度がついていたので、側頭部でのスラムKOタイプともいえると感じます。
MMAにおいて後頭部への攻撃は明確な禁止行為なので、このタイプのスラムKOは「投げ」と「打撃」の境界線上にある非常にグレーな決り手です。
MMAにおいてここまで明確なパワーボム・タイプは少ないですが、一方でよりテクニカルに「投げ」と「打撃」のグレーな境界線の間隙を縫ったKOが観られます。
そんなテクニカルなパワーボム・タイプで特に印象的なのは、今は亡きLegacy FCでの
ジェラルド・ハリス vs. アーロン・コッブ です!
この試合では、コッブがクローズドガードでハリスを捕獲した際に、ハリスが前腕で顎部や首付近を「固定」してからスラムで落としているシーンが観られます。
なぜ顎や首を固定するのかというと、地面に激突した際に衝撃の「遊び」を防いで頭部へ直にダメージを与える為です。(MMA選手はみな強い首周りを持っているので、衝撃に「遊び」があると力が流れてKOに至らない事が多くあります。顎への加激により、パンチを打ち込むような脳震盪を起こす狙いもあると感じます。)
これは明確にKOを狙っていますし、言ってしまえば地面を使った「前方からの後頭部への加撃」とも観て取れなくない攻撃といえます。
もし上記の通り「打撃」であるなら明確な反則ですし、「投げ」であったとしてもグレーな境界線にある技といえます。
ある意味では、上記のスラムKOの成功率の低さ、偶発性の高さによって「流れの中での偶発なTKO」と見なされる特質性があるからこそ成立しているともいえますね~。
ジェラルド・ハリス vs. デヴィッド・ブランチ においても、同じタイプのスラムKOを魅せていますね~。
ハリスはキャリアを通して5回ものスラムKOを魅せている選手で、まさに「スラムKOの名手」という感じです。
砂辺光久 vs. 室伏伸哉 において、室伏がギロチンチョークを極めに行った場面で、砂辺が室伏の顎部に手を添えながら落としたスラムKOが特に印象に残っています!
この一戦は試合内容も非常に名勝負でしたね~✨
体重を浴びせもたれ込むスラムKO ボディフォールド・タイプ
最後に、珍しい「ボディフォールド(鯖折り)」タイプのスラムKOについて、UFCの
ティト・オーティズ vs. エヴァン・タナー で紹介します!
この試合では、タナー首相撲で捕えてきた所をオーティズがボディフォールド(鯖折り)で持ち上げて、そのまま体重を浴びせてもつれ込むようにして落とす事でスラムKOが生まれています。
このタイプでは、実質的に落とした時にバッティング(頭突き)が起きてしまっており、バッティングによって頭が「固定」され、「遊び」が無くなった事でKOが発生するというものです。また、顎部へのバッティングによる脳震盪の要素もありますね。
(上記のジャクソン vs. アローナもそうなのですが、正面から落とすとバッティングが起こってしまう事は多いです。)
こうなると、見ようによっては「後頭部への加撃」と「バッティング(頭突き)」という、MMAにおける「反則の挟み撃ち、二重反則」ともいえる凄い状態が生まれてしまっているともいえますね~💦
パワーボム・タイプと実質的な構造はほぼ同じなのですけれども、より濃い目のグレーな技なのかも?とも感じます。
とはいっても、スラムKOの中では最も成功確率が低い技であると感じますし、なかなかお目にはかかれない希少なシチュエーションであるが故に判断するのが難しいのかな、とも思いますね~。
日本のMMAにおいてもボディフォールド・タイプのスラムKOが恐らくあるとは思うのですけれども、パッと浮かばないのが歯がゆいですね~;
MMA外も含められるのなら、ムエタイで日本人初のスタジアム認定王者が生まれた
藤原敏男 vs.モンサワン・ルーク・チャンマイ で決まり手となったのが、ボディフォールド(鯖折り)からの実質的なスラムKOであったというのが有名ですね!
長身フレームと首相撲を掻い潜りて崩し投げを狙っていくというのは、MMA的にも非常に魅力的な動きで印象に残っていますね~。
近年のスラムKO 複合的な進化
MMAの日々の進化によって、スラムKOも日々研鑽と進化が続けられています。
まずは2021年のBrave CFから、
ヌルスルタン・ルジボエフ vs. イブラヒム・マネ を紹介します!
この試合では、スイープされ三角絞めに捕らえたマネを、ルジボエフが落としてスラムKOしています。
持ち上げ方はパワーボム・タイプといえますが、角度をつけて落としている側頭部狙いのスラムともいえ、一口には分類できない複合的な攻撃であると感じます。
観方によってはパイルドライバー・タイプ(真上から垂直に下ろす)のようにも見え、パイルドライバーの場合は反則となる為にグレーな攻撃であるとも感じます。
ここら辺、MMA統一ルールにおける記述が少ないのもグレーさを生む原因の一つであるとも感じますね~💦
側頭部狙いなら、パイルドライバー・タイプに近い落とし方でも良いのか?
曖昧さを無くしていくことは、今後のMMAの進化にルールが追いつけなくなることを防ぐ為にも重要であると感じます!
2018年のCESでは、
トニー・グレイヴリー vs. コーディ・ノービー でスラムKO決着が起こりました。
※件のシーンは動画の2分20秒くらいからです。
試合では裏投げを受けたノービーが下からアームバーで捕えた所を、グレイヴリーが2度スラムで落としているのが観られます。
1度目はそのまま落としている為、角度がつかず高さも十分でない為に側頭部へダメージが通り切りませんでした。
しかし、2度目には角度をつけながら脚のフックを手で外し、ノービーの姿勢補助を防ぎながら回転させて落としています。
一連の補助動作が加わることで側頭部への衝撃が身体の内部に「籠り」、頭部へのダメージが十分に通ってKOに繋がっていることが分かる良い例であると感じますね~。
2018年のONE Championshipでは、
クリサダ・コンスリチャイ vs. ロビン・カタラン にてスラムKOが起こりました。
この試合では、両差しのクリンチから背後を獲ったクリサダが、ラテラルドロップ(裏投げ)で落としているのが分かります。
後頭部を打ち付けたカタランは戦闘不能となりスラムKO勝ちが一旦は宣告されたものの、後日に後頭部への反則攻撃とされ、試合結果はカタランの反則勝ちへと変更されました。
それにしても、格闘アナウンサーのマイケル・シャヴェーロ(Michael Schiavello)さんの決め台詞「ブーム・シャカ・ラカ!(Boom Shaka-Laka !、おもに感嘆を意味するスキャットの一種)」はカッコいいですね~。
シャヴェーロさんは豪快なスラムがMMAで出た時に必ずこの台詞を言うので、「ブーム・シャカ・ラカ!」はMMA観るマン的に「スラムの代名詞」になっています!
ONEでは上記のクリサダvs.カタランの反則裁定からスラム系の投げに制限が強くなっていますけれども、シャヴェ―ロさんの「ブーム・シャカ・ラカ!」はこれからも聞いていきたい台詞ですね~;
というわけで、MMAにおけるスラムKOのよもやま話でした~。
スラムKOはMMAにおける「花形」ながら、偶発性も強くグレーな境界線に咲いている妖しい魅力を放っています。
MMAの技術進化においては技の破壊力(と危険性)は日に日に増しており、かつMMAのルールの改正も進んでいくことになるでしょう。
現状のMMAユニファイドルール(統一ルール)においては「パイルドライバー(真上から真下へ落とす)」タイプのみが禁止となっていますが、いつの日か、スラムKOも廃止ないしは制限化されていく可能性も高いと感じます。
是非についてはMMAの歴史の流れに揺蕩うのみですが…MMAにおけるスラムKOを改めて観直すことは、その独自性をも考えることに繋がるな~と感じたのでした。
過去記事はこちら~ノシ
【MMAお気に入りテクニック十選】
【MMAテクニックよもやま話】シリーズ